Logo

インドライオン

クレジット
Avatar
イラストレーター
デザイナー
インドライオン-1
シェア

インドライオン

分類:食肉目ネコ科 シートン大友の百獣画録 第56話「母の咆哮」  雄ライオンは自分の縄張りを宣言する方法のひとつとして、約8キロ先まで届くと言われる大声で吠えます。私も幼い頃、夜のサファリパークでその声を聞いたことがありますが、暗闇の中から腹の底を揺さぶるように響いてくるあの咆哮は、まさに圧巻でした。第14話でタテガミの黒さを「実力の証明書」と呼びましたが、あの咆哮もまた、百獣の王の名刺のようなものです。聞いた者に「ここから先は俺の領土だ」と一声で理解させます。名刺というより、宣戦布告と言った方が正確かもしれません。このシリーズでライオンが登場するのは、第14話、第32話、第41話、第52話に続いて5度目ですが、今回はその咆哮にまつわる、ひとつの例外の話をさせて下さい。  最近まで上野動物園には、ライオンの中でも珍しいインドライオンが飼育されていたことがありました。第41話のバーバリーライオンは「百獣の王の中の王」でしたが、インドライオンもまた特別な存在です。アフリカではなくインドのグジャラート州にのみ生息する、世界で唯一アジアに残ったライオンです。その上野のインドライオンの群れは、母子家庭でした。母ライオンをズーラシアに居たときに妊娠させ、そこから上野に運んできたのです。その後本来なら雄が担うべき縄張り宣言の咆哮を、母親が自ら引き受けました。第55話のレオポンは夫のトラを尻に敷いていましたが、あちらは夫が居ての話です。このインドライオンの母親には、尻に敷く相手すら居なかった状況です。雄がやるべき仕事も、群れのメンバー全員で分担するはずの子育ても、すべて一頭でやり遂げていたのです。  第14話で、タテガミの黒さは戦いに勝ってきた証だと書きましたが、雌ライオンに基本タテガミはありません。実力の証明書を持たない母親が、証明書を必要とする仕事を引き受けていた。肝っ玉母さんという言葉がこれほど似合うライオンも珍しいでしょう。第52話では「飼育下では増え過ぎ」という贅沢な悩みを紹介しましたが、この母親の悩みは贅沢とは程遠いものだったはずです。それでも彼女は吠え続けました。子供達のために、自分の声で縄張りを守り続けたのです。  やがてその母親は天寿を全うしました。すると今度は、彼女の雄の子供が後を引き継ぐように、立派に吠えていたのです。母から子へ、咆哮が受け継がれた。・・・実は私がその雄の咆哮を見たのは、彼が亡くなるほんの数日前のことでした。あのとき聞いた声が、彼の最後の咆哮のひとつだったのかもしれません。幼い頃にサファリパークで聞いた咆哮は「圧巻」でした。しかし上野動物園で聞いたあの咆哮には、圧巻とは違う何かがありました。母が守り続けた縄張りを、息子が最期まで守ろうとしていた。・・・百獣の王の咆哮にも、色々な声があるのだと、あのとき知りました。
クレジット
Avatar
イラストレーター
デザイナー
シェア
シートン大友の他の作品
画像
作品を見る
マントヒヒ
画像
作品を見る
エゾヒグマ
画像
作品を見る
ミナミシロサイとヒガシクロサイ
foriio

あなたのforiioを無料で作成

fori.io/
インドライオン-1

インドライオン

分類:食肉目ネコ科 シートン大友の百獣画録 第56話「母の咆哮」  雄ライオンは自分の縄張りを宣言する方法のひとつとして、約8キロ先まで届くと言われる大声で吠えます。私も幼い頃、夜のサファリパークでその声を聞いたことがありますが、暗闇の中から腹の底を揺さぶるように響いてくるあの咆哮は、まさに圧巻でした。第14話でタテガミの黒さを「実力の証明書」と呼びましたが、あの咆哮もまた、百獣の王の名刺のようなものです。聞いた者に「ここから先は俺の領土だ」と一声で理解させます。名刺というより、宣戦布告と言った方が正確かもしれません。このシリーズでライオンが登場するのは、第14話、第32話、第41話、第52話に続いて5度目ですが、今回はその咆哮にまつわる、ひとつの例外の話をさせて下さい。  最近まで上野動物園には、ライオンの中でも珍しいインドライオンが飼育されていたことがありました。第41話のバーバリーライオンは「百獣の王の中の王」でしたが、インドライオンもまた特別な存在です。アフリカではなくインドのグジャラート州にのみ生息する、世界で唯一アジアに残ったライオンです。その上野のインドライオンの群れは、母子家庭でした。母ライオンをズーラシアに居たときに妊娠させ、そこから上野に運んできたのです。その後本来なら雄が担うべき縄張り宣言の咆哮を、母親が自ら引き受けました。第55話のレオポンは夫のトラを尻に敷いていましたが、あちらは夫が居ての話です。このインドライオンの母親には、尻に敷く相手すら居なかった状況です。雄がやるべき仕事も、群れのメンバー全員で分担するはずの子育ても、すべて一頭でやり遂げていたのです。  第14話で、タテガミの黒さは戦いに勝ってきた証だと書きましたが、雌ライオンに基本タテガミはありません。実力の証明書を持たない母親が、証明書を必要とする仕事を引き受けていた。肝っ玉母さんという言葉がこれほど似合うライオンも珍しいでしょう。第52話では「飼育下では増え過ぎ」という贅沢な悩みを紹介しましたが、この母親の悩みは贅沢とは程遠いものだったはずです。それでも彼女は吠え続けました。子供達のために、自分の声で縄張りを守り続けたのです。  やがてその母親は天寿を全うしました。すると今度は、彼女の雄の子供が後を引き継ぐように、立派に吠えていたのです。母から子へ、咆哮が受け継がれた。・・・実は私がその雄の咆哮を見たのは、彼が亡くなるほんの数日前のことでした。あのとき聞いた声が、彼の最後の咆哮のひとつだったのかもしれません。幼い頃にサファリパークで聞いた咆哮は「圧巻」でした。しかし上野動物園で聞いたあの咆哮には、圧巻とは違う何かがありました。母が守り続けた縄張りを、息子が最期まで守ろうとしていた。・・・百獣の王の咆哮にも、色々な声があるのだと、あのとき知りました。
クレジット
Avatar
イラストレーター
デザイナー
シェア
シートン大友の他の作品
画像
作品を見る
マントヒヒ
画像
作品を見る
エゾヒグマ
画像
作品を見る
ミナミシロサイとヒガシクロサイ
foriio

あなたのforiioを無料で作成

fori.io/