見入ってもらえるような“魔力”のある作品を描きたい。マツダケンが描く「動植物の共生」の姿

「人生一回きりだしなあ…と思って。絵に振り切ってみることにしたんです」

そう静かに話すのは、画家・イラストレーターのマツダケンさんだ。「動植物の共生」をメインテーマに、ペンと水彩を用いた作品を描き続けている。鳥取県米子市出身のマツダさんは2019年3月まで米子市の職員として働きながら活動をしてきた。同年4月に画家として独立、6月には活動拠点を関東に移し、新たなスタートを切っている。

幼い頃から絵を描くことが好きだったという彼は、どのように作品づくりに向き合っているのだろうか。これまでのキャリアや作品に込めた想いについて伺った。

小学生の頃にもらった一枚の「絵」がきっかけ

絵を描き始めたのは小学生の頃。気づくとノートの切れ端に絵を描いているような小学生だった。特に「動物」をモチーフに絵を描き始めたきっかけは、当時出会った大学生からもらった一枚の絵。

「米子市の小学生が宿泊学習をするような施設があるのですが、僕はその施設で開催されるイベントにたびたび通っていたんです。山奥にある施設で、自然がたくさんあるような場所でした。そこである時、動物の絵がとても上手い大学生に出会いました。『うわ、すげー』と衝撃を受けたことをよく覚えています。大学生にねだって、その絵をもらったんです」

絵をもらって以来、何かしら動物の絵を描き続けてきたという。中学生頃からは「絵が活かせる職業」として保育士を目指し、大学では教育学部で幼児教育を専攻。新卒では保育士の道へ進んだ。

「男性が保育士や幼稚園教諭をやっているイメージはあまりなかったのですが、中学生の時に職場体験で男性の保育士に出会ったんです。それ以来、保育士という職業が将来の選択肢に浮かんでいました。絵本に触れる仕事でもありますし、絵を描きながら保育の仕事ができたらいいなと考えていたんです。ただ、現実はなかなか上手くいかない部分もあり、保育士は1年で辞めてしまいました。その後、米子市の職員に転職してから、本格的に画家としての活動を始めました」

職員時代から描いた絵をネット上で発表などしているうちに、多くの人に見てもらえるようになった。しかし、市の職員という役割上、会社員と同じような前提条件のもといわゆる“副業”ができるわけではない。絵の評判が上がる一方、市長宛にマツダさんの活動を問題視する声があがったのだ。

「絵を発表しているうちに『売って欲しい』という声もいただくようになったんです。ただ、あくまで市の職員なので、難しい部分もあるんですよね。ある時、市長宛に問題視のメールが届いてしまったんです。その後は公に活動することは難しくなりました。しかし、市長は僕のことをとても応援してくれていて。引き続き職員は続けられたものの、『市の職員』と『画家』の両立は難しいことが目に見えてきていました」

その後、画家としての仕事や依頼は順調に増え、2019年3月には市の職員を退職。画家として生きていくことを決めた。その時のことをマツダさんはこう振り返る。

「ありきたりな言葉ですけど、人生一回きりだしなあ…と思って。これだけ絵を見てもらえたり、売れたりすることは非常に光栄なことですし、今が貴重なチャンスだと思うんです。とても勇気のいる決断でしたが、絵に振り切ってみようかなと」

リアルな“共生”も捉えながら、自然の美しさを凝縮する

独立後には米子市水鳥公園で作品展『水に憩う』を開催。原画を同公園に寄贈した後、活動拠点を関東に移した。マツダさんの作品はペンと水彩を用いたもの。この作風が確立されたのは、ここ数年のことだ。

「水彩とペンで描くようになったのは4〜5年前。それまではペイントソフトSAIを使ってデジタルで作品を描いていたんです。アナログで描くようになり、ペンで描いた繊細な線や鮮やかな色彩を『原画』の展示を通して生で見てもらえるようになりました。これまで大阪や東京でも個展を開催してきましたが、絵の前でじっと子どもが立ち止まって、食い入るように見てくれたりするんです。どこか魅力を感じてくれたのかなと嬉しくなります」

試行錯誤を重ねながら現在のようなタッチの作品が生まれた。一方、描くメインテーマは「動植物の共生」だという。動物の身体と植物が一体となった、幻想的な世界が描かれている。

「はじめは何の気なしに、カエルの絵にコケを描いたことがあったんです。それをきっかけに、動物と植物を一緒に描いたり、背景に花を咲かせたりするようになりました。動物と植物が完全に一体化していることは現実にはなかなか無いと思いますが、描く際には“ないことはない”ギリギリのラインを探していたりするんです。たとえばカメって甲羅にコケがついていたりする。そういうリアルな共生も捉えつつ、自然を一つにぎゅっとまとめるとこんな感じになるかなと想像しながら描いています」

作品はメインとなる絵をラフデッサンとして描き上げ、しっくりきたところで本番に取り掛かる。水彩は一般的に淡い表現に向くと言われているが、あえて水を少なくして発色を鮮やかにし、ペンで濃淡などを表現する。

「ラフデッサンを描いて、しっくりこないものはどんどんボツにしていきます。同時に色も置きながら、この並びでいいかなと考えていきますね。ペンで明暗や濃淡を表現しているので、色は塗り絵のように塗っていく感じです。色を淡くしたり、燻ませたりはあまりせず、色自体はとても鮮やかなのが作品の特徴かなと思います」

描く動植物は、形や機能が魅力的だと感じたところから、イメージを膨らませて作品にしていくことも多いという。散歩をしながら道端の雑草を写真に撮ったり、動植物の図鑑や写真集などから着想を得ているが、マツダさんは自然をどのように捉えているのだろうか。

「その辺りの道端に咲いている花とか雑草でも、よく見ると『こんな形をしていたんだ』と気づくことがあります。僕はむしろそういう素朴な自然の美しさに心を奪われる。虫でいうと『この関節すごい形してるな』とか機能美みたいなものがあったり、鹿の角の美しい形であったり。自然界は、人間が思いつかないような姿・形を生み出していると思うんです。それを捉えて作品に昇華させています」

見入ってもらえるような“魔力”のある作品を

クジラと大木を描いた作品『大老(たいろう) 』は、表情にもこだわっている。動物と植物を一体化させた作風を続けてきた、これまでの集大成のような作品だという。この作品は4月に開催した個展で買い手も決まった。

「大きな木と一緒に育つクジラをイメージして描きました。クジラって、自分の中でとても神聖なイメージをもっているんです。厳かな感じを表現したかった。けれど『目』を見るとすごい優しいんですよね。生命力や感情みたいなものを込めて描いています」

『大老(たいろう) 』をきっかけにして決まった仕事もある。マルクス研究について書かれた書籍『大洪水の前に:マルクスと惑星の物質代謝』の装画の仕事だ。銀の箔押しになっており、全4色展開の特別版も制作・出版されている。

「作品を見た編集者の方から声をかけていただいて、装画として採用させてもらえないかと依頼がきたんです。せっかく声をかけてもらったので、描き下ろしますと提案させてもらい、改めて描いたものが書籍の装画になっています。このお仕事から、箔押し会社さんとの繋がりができたので、次にどんなものを作ろうか一緒に考えたりしています」

8月には東京で個展も予定しているというマツダさんは、今後について「動物の絵を描いている人はたくさんいるため、埋もれないようにしたい」と冷静に話す。

「市の職員を辞めて、覚悟を決めて関東に来ました。画家でやっていこうというのなら、最も可能性が広げられそうな関東に出ようと考えたんです。自然豊かな米子市で生まれ生活してきたからこそ、現在の作風が生まれたのだと思いますが、関東には関東の自然があるし、さまざまなものに触れることでインプットの量も増える。アウトプットの質や量も異なってくると考えています。特に今は動物の『目』の表現にこだわっていて、立ち止まって見入ってもらえるような“魔力”のある作品を描いていきたいです」

Text: Yuka Sato / Photograph: Shunsuke Imai

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