この曲を2022年4月に亡くなったドイツ出身のシンセサイザー奏者・作曲家、クラウス・シュルツェ氏に捧げます。当時の私はまだ作曲を始めたばかりであり、「今すぐに追悼曲を制作しても納得のいく完成度にならないだろう」と判断しました。そして、この2年間で腕を磨いた集大成として2024年1月〜4月にかけて作曲しました。当初は、シュルツェ氏の作風に寄せてシンセサイザー中心のサウンドにする予定でしたが、私が最も現時点の実力を発揮できそうなジャンルがオーケストラ作品であったため、冨田勲氏の『イーハトーヴ交響曲』のようなオーケストラ伴奏のボーカル曲を目指しました。またその中で、グロッケンやチェレスタ、ハープの音色を用いて、シュルツェ氏の1977年作のアルバム『Mirage』の楽曲『Crystal Lake』を想起させるような透き通ったサウンドを目指しました。
この曲で工夫した点は大きく2つあります。それは「曲の緩急」と「歌詞による世界観の表現」です。
まず、作曲面では緩急の付け方を工夫しました。以前の私は不必要な音を間引き、ダイナミクスレンジの幅を広げることが本当に苦手でした。レッスンで先生に何度も聴いて頂き、学び、実験を繰り返しながらじっくりとブラッシュアップをしました。AメロBメロでグッと堪えてボリュームを抑え、また、サビの中でも曲の頂点や抑えるべき部分を意識して楽器を足し引きしました。
次に、この曲の歌詞についてです。『Mirage』の世界観や収録された曲のタイトル、アルバム制作当時のエピソード、ライナーノートに記されたシュルツェ氏の音楽観を元に言葉を紡ぎました。「冬の情景」や「兄との死別」といったキーワード、また、「それ(シュルツェ氏自身のレコーディング)は日記を書くことと似ている。書いている正にその時の気持ちを綴っているのだと思う。」「眠りによる隔離のない夢、それが音楽だ。」「僕の音信条は聴き手をパワフルにハッピーにすることなんだ。想像力を発揮して感情を意識してもらいたいのさ。」といったシュルツェ氏の過去の発言がヒントになりました。