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制作ノート
レタッチを、誰かの人生の“きっかけ”に。レタッチャー大谷キミトがPhotoshop技術を発信するワケ
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写真や画像のポテンシャルを最大限に引き出す技術。それがレタッチだ。一枚の写真を、時として広告に、時として芸術作品へと作り変える力を持つ。高度な技術を駆使し、レタッチを専門的に行う人々は「レタッチャー」と呼ばれ、広告業界をはじめとしたさまざまな業界で活躍している。

今回お話を伺ったのは、Photoshop歴20年、レタッチ専門事務所NORD WORKSの代表を務める大谷キミト氏。3DCGクリエイターからキャリアを始め、その後レタッチャーへと転身、2015年に独立を果たした。これまでのキャリアや、技術を通して人々に伝えたいことを伺った。

原体験は、『ジュラシック・パーク』への衝撃

Note

——大谷さんはレタッチャーになる前、もともと3DCGのお仕事をされていたと伺いました。3DCGに興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?

小学校高学年か中学生くらいの頃から映画が好きでよく観ていました。そのときに『ジュラシック・パーク』の1を観たのが、CGに興味を持つようになった原体験ですね。最初に恐竜が画面に現れたとき、本当に衝撃的で、当時はどう見ても本物にしか見えなかった。これってどうやって作っているんだろうと思って調べてみると、どうやらCGという技術が使われているらしい。メイキング動画も見て、初めて制作の裏側を知りました。「すごいな。こんなことできちゃうんだ。こんなすごいことができるなら何だってできるだろうな」と思ったのを今でもよく覚えています。

——3DCGを知ってからそれを仕事にするまで、どのような道を辿ってきたのでしょうか?

高校を卒業してから3DCGの専門学校に入学し、知識を身につけました。小学生の頃から、学芸会のような学校行事でアイデアを皆で出し合いながら出し物を作るのが好きだったので、映画やCMを作る仕事ができたら面白いなと思ったんです。それで、3DCGの制作会社に行こうと考えました。

運良く専門二年生の初めの頃には東京で就職が決まって、すぐに来てほしいと言われたので、在学中からその会社で働き始めました。当時は、主に映像やゲームのCGを手掛けましたね。

——その会社でキャリアを積まれたあとに、レタッチャーに転身されたのですね。

そうですね。入社してから数年間はCGの仕事をしていましたが、正直、周りがあまりにもハイレベル過ぎて、自分の力の限界を感じてしまったんです。それで一度札幌に戻って、一年ほど何をしようか考えていました。そのとき、「自分はCG制作だけじゃなくて、写真やPhotoshop、そして広告が好きだ」ということに思い至り、今度はこれを仕事にしてみようと思ったんです。

Note

しかし、当時の札幌にはレタッチを専門的に担う会社はなく、そもそも「レタッチって何?」と言われるほど認知度が低かった。なので、まず写真や画像データを扱う会社にアルバイトとして潜りこみました。

当時その会社でも、画像編集といえば主に色の補正や画像に写り込んだゴミを取るくらいしかやっていなかったので、「レタッチのサービスを始めたい」と社内向けに提案したんです。これが私のレタッチャーとしてのキャリアの始まりでした。

そこからサービス立ち上げに注力し、約9年間、レタッチサービスを運営しました。2015年には、そろそろ独立したいと考えて、フリーランスになりました。

画像を、3Dフィギュアのように。単なる「編集」にとどまらないレタッチの試み

——社内起業をされて、本当にゼロからのスタートだったんですね。

はい。Photoshopの技術に関しては仕事を通して技術を身につけてきたので、実は勉強のための書籍などを読んだことはほとんどありません。3DCGの仕事をしていたとき、制作でレタッチに近いことをかなりやっていたので、その経験が糧になりました。

当時はまだレタッチという言葉はなく、もちろんレタッチャーという呼び名もなかったと思います。。Photoshopを使う人という意味で「フォトショッパー」なんて呼ばれていたんですよ(笑)。少し経つと業界の中ではレタッチャーという言葉も出始めていたので、僕も「レタッチャー」と積極的に名乗って、どのようなことをしているかアピールするようにしました。

Note

——「フォトショッパー」は今聞くと斬新な呼び名ですね…(笑)。レタッチのお仕事では、実際にどのような技術を使うのでしょうか?

レタッチの技術は本当に幅広くて、画像の切り抜きや補正といった基礎的なものから高度な合成技術など、本当にさまざまです。具体的な一つの仕事の例として、僕が始めた「人類人形化計画」の動画をご紹介します。

https://youtu.be/YnMzke-WxBI

これは、スマホやデジカメで撮影した写真をPhotoshopで編集して、画像を3Dプリンターで作られた本物のフィギュアのように見せています。動画を見てもらえると分かるのですが、普通のサイズ感の人間を2等身のキャラクターフィギュアにするために色々な加工を行っています。

そのまま縮めただけでは実写になってしまうので、撮った写真を切り出して、シミやシワを消して肌の色を全体的にフラットにしたり、黒目の部分をペイントっぽくしたり、手足の大きさや角度を変えたり…。カプセルトイで出てくるような人形を参考にしながら作りました。

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——面白い試みですね! これは、もともとなにか構想を練って始めたプロジェクトなのですか?

いえ、ほんの遊びのつもりで始めて、Twitterで「こんなことやってます」と発信したら、「自分もやってほしい!」っていう人が集まってくれたんです。Photoshopやレタッチを身近に面白いと感じてもらえたら良いなと思って始めたのですが、予想以上の反響に驚きました。これをきっかけに、これまでレタッチに触れたことがなかった人が興味を持って何かを始めてくれたら、とても嬉しいですね。

技術は大放出。とにかくレタッチを「楽しんで」もらいたい。

——「レタッチに興味を持ってもらえたら嬉しい」というのは、素敵な思いですね。普段のお仕事も、同じような思いで取り組まれているのでしょうか?

そうですね。あとは、「興味はあるけれど何をしたらいいのか分からない」という人のために、自分の技術をnoteなどで積極的に公開しています。「やってみたい」と思う人は、実際にレタッチができるようになったら楽しいでしょうし、それがきっかけでその人の人生が良い方向へ変わったら、本当に嬉しいなと思います。

僕も、映画にワクワクしたことがきっかけでこの仕事を始めました。なので、「楽しい」という感覚を一番大切にしているんです。レタッチを「楽しい」と感じてもらえることで、誰かの人生に少しでも影響を与えられたら良いですね。

——現在は、オンライン・オフライン両方の場で精力的にレタッチ技術の普及に務めていらっしゃいますよね。

はい。技術は包み隠さず大放出しています。自分の仕事が減っていく可能性もありますが、それで世の中が良くなるならいいかな、って(笑)。最近はセミナーも開催しているのですが、レタッチャーを目指す人だけでなく、カメラマンやデザイナーで参加してくださる方も多いですよ。もちろん、どんな職種の人でも大歓迎です。レタッチに関わりたい人全てに広く門戸を開いています。

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——まさに、技術を習熟しきったからこそ辿り着ける立ち位置ですね。最後に、大谷さんの今後のお仕事の展望について聞かせてください。

まずは、教える場をもっと強化すること。現在は札幌に在住しているので、この土地でレタッチの小さな学校や教室を作れないかと考えています。これまで通り門戸を広く開くための情報提供はしつつ、プロとして活躍できるような、本格的なレタッチの技術を教えられるようになりたいです。

それから、自身の受託制作では、まだレタッチが浸透していない分野にもチャレンジしてみたいですね。例えば企業の広告などでも、従来の切り抜き加工や画像補正だけでなく何かとレタッチを掛け合わせることで、これまでにない新しい表現を見つけられたら面白いな、と考えています。

良いアイデアの創出とは、「色々なものを掛け合わせることで新しい価値を作ること」だと思うんです。見たことのないものというのは、ある日突然現れる。「人類人形化計画」も、ある意味でその走りのようなものかもしれません。遊び心から生まれた「何か」によって、レタッチの可能性をこれまでにない領域へと広げることができたら、レタッチがより一層楽しくなると思います。

Text: Shika Fujisaka / Photograph: Shunsuke Imai

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