感情を高める音作り。30レイヤーのサウンドエフェクトで表現する近未来

映像を構成するのは、視覚情報だけではない。「音」も重要な要素だ。同じ映像でも、どのような音をつけるかによって、印象が変わる。音は、目に見えない情報である一方、見る人に確実に影響を与えているのだ。

企業のブランディングムービーやドキュメンタリー映像を手がけるAri Keita氏は、幼少期からさまざまな音楽経験をもつ。今回手がけたInformation Development社の広告映像では、躍動感のある世界観をサウンドエフェクトで表現した。

同氏が映像制作を始めたきっかけや、五感を刺激する映像作りについて伺った。

Ari Keita/アリケイタ 映像制作者

1985年11月3日生まれ。幼少期をタイ・バンコクで過ごし、大学卒業後はアメリカ・サンディエゴに留学。​​帰国後、YouTubeにてビロガー("ビデオブロガー"と"ブロガー"を組み合わせた自身の造語)のアリとして、動画を制作を開始。​​2012年、YouTube NextUpプログラムに選抜され、参加。映像制作と動画コンテンツの知識を深める。​​2013年、フリーランスとして企業から依頼された動画制作を請け負う。​​2014年、ブレイカー株式会社とパートナーシップ契約を結び、ビジネス、地方創生、人に特化したドキュメンタリー映像とインターネット番組を制作。​​2016年、VERYbig株式会社にて、共同創業者兼社長として就任。

編曲の経験から、映像制作の道へ

——映像制作とは、どのようにして出会ったのでしょうか? Ari最初の入り口は音楽でしたね。僕は中学生の頃にマーチングバンドから始まり、吹奏楽やオーケストラなど、音楽を続けてきたんです。トロンボーンを担当していて、高校は吹奏楽推薦で進学しましたし、音大に行こうと考えていたくらい音楽が好きで。

それが映像へとつながったのは、大学時代に「編曲」を経験したことにあります。

——編曲、ですか。 Ari児童養護施設などで演奏を行うチャリティーバンドに所属していたのですが、ある時、楽譜の編集が必要になったんです。たまたま僕はその頃からPCに興味があって、Finaleという楽譜編集ソフトで編曲を担当しました。ただ、それまで僕は楽譜を覚えるのではなく、演奏を耳で聴いて覚えるタイプで。Finaleで編曲をする中で、音符や演奏記号がわかるようになりました。音楽ができる仕組みがわかって楽しいのと同時に、ツールを使って編曲すること自体も楽しくなってきたんですよね。

それと同時に、当時YouTubeが出始めたこともあり、表現するための様々な媒体やツールにも興味が湧いてきました。そこで今度は、編曲ソフトではなく、映像編集ソフトで何か使ってみたらどうだろうと思い、Mac Bookを買ってi-Movieで映像制作を始めました。直感で「音楽作りと一緒だ」という感覚を持ちましたね。

——編曲する感覚と、映像制作の感覚がリンクしたというのは面白いですね。 Ariそうですね。だから僕の映像は「テンポが良い」とよく言われるんですが、音楽をやっていたからこそかなと。映像を切り替えるタイミングとか、音と映像をどう組み合わせるかとか、「テンポ」を気にして制作しているんです。

これは単に「音ハメ」といって、リズムやカウントに合わせて映像を切り替えるとか、必ずしもそういう手法を使っているのではありません。音ハメってやりすぎると逆にダサいこともある。映像を切り替える際などに、音とのリンクを意識している、といった感じです。

今回制作したInfomation Development社(以下、ID社)の広告映像も、なぜこのタイミングで映像を切り替えるのか言葉で説明できない部分があるんですが、テンポは意識していますね。

サウンドエフェクトへのこだわり

——感覚的な部分が大きいんですね。ID社の広告映像は、どのようなきっかけで制作されたのでしょうか。 Ari以前、起業家やイノベーターの交流会イベントの紹介映像制作を担当したんですが、その映像がID社の目に止まり、お声かけいただいたのがきっかけです。

当初はJISA/ASOCIO Digital Masters Summit 2018という世界中からテクノロジー系企業が集まるイベントで流す企業紹介映像として制作したものでした。それが、先方社内で大変好評いただいき、最終的には、新宿のアルタビジョンや丸の内エリアのデジタルサイネージなどでも放映されました。

——企画から担当されたとのことですが、どんなイメージで作られたんでしょうか。 AriID社は今年11月に創立50周年を迎える大手情報サービス系企業です。老舗かつ、専門性の高い事業を行なっていることもあり、保守的なイメージを持たれがちだと聞きました。今回は、それを破壊したいというニーズがあったんです。そのため、冒険感や躍動感、スピード感を感じられるような映像に仕上げています。

テーマはSFです。僕がSF好きということもあり、たとえば冒頭で女性がグラスをかけてバーチャル空間に入り込んでいくシーン。これは『レディー・プレイヤー1』や『オルタード・カーボン』という作品からインスパイアを受けて作ったものです。僕は自分の中に今まで見聴きしてきたものの要素を取り入れて、作品に活かすことが得意だと思っています。他のシーンでも、さまざまなSF映画からのインスパイアが散りばめられているんです。

パブロ・ピカソの名言に「良い芸術家は真似をする。偉大な芸術家は盗む」という言葉があります。この言葉は、他人の作品を複製するのではなく、自分の中にその要素を取り入れて表現する価値を表していると僕は理解しています。

人間の五感を刺激する映像作り

——制作する中で、特にこだわったことはなんですか? Ari音ですね。特にサウンドエフェクト作りにこだわっていて、音作りだけで一週間くらいはかかっています。たとえばグラスをかけた後のシーン、「ギュイーン」という音が入っていますよね。こういう音は、さまざまな音素材を重ねて、そのシーンに合う音を表現しているんです。

街の音、車の音、耳鳴りの音、レンジの「チン」って音…。さまざまな音がアップロードされている音源サイトで音を入手して、組み合わせてサウンドエフェクトを作ります。 ※音源サイト https://freesound.org

今回の映像は、サウンドエフェクトを入れたバージョン、入れないバージョン(音楽とナレーションのみ)を聴き比べながら制作しているんですが、音だけで30レイヤーくらい重なっている部分もありますね。

—— 合計30レイヤーも重なっているんですね! Ariそうなんです。音楽や環境音は、映像を見る人の感情を高めたり、そこにいるかのようなリアルさを感じさせてくれるんですよね。人間の耳って、その音の存在を頭で認識していなくても小さなデシベル単位では聴こえているはずで。さまざまな音の集合体を感じ取っているんだと思うんですよ。

たとえば風の音は、高音・中音・低音に分けてそれぞれ音を用意して、足し合わせて表現しています。編曲をする時って、トランペット、ホルン、チューバのような形でパートを作るんですよね。それと同じような感覚なんです。

映像は、もちろん視覚情報も大切ですが、同じくらい音や音楽も重要。音によって生み出される感覚を大切にしています。

——編曲経験があるからこその映像作りですね。今後は、どんな映像制作に挑戦したいと考えていますか? Ari音と映像のリンクを、より追求していきたいです。人間が音を認知する状況と同じ条件で収録する「バイノーラル録音」という手法があります。この手法を用いて、より臨場感のある映像を作りたい。バイノーラル録音をすると、例えば耳元で聴こているような感じや、遠くで聞こえている感じなど、あたかもその場で体験しているような音体験ができるんです。VR映像では用いられることがあると思いますが、僕は2D映像で作りたいと考えています。

具体的には人物インタビューをバイノーラル録音してみたら面白いのではないかと。会話しているような雰囲気が実現できると思うんですよね。

——話し手の感情や考えが、よりリアルに伝わりそうですね。 Ari加えて上映会など、映像をきっかけとしたコミュニケーションを仕掛けてみたいです。先日は種子島の住人のドキュメンタリーを制作しましたが、料理研究家の方やマリンスポーツをやっている方に出演いただきました。たとえばそういう方々と、映像を見た方が一緒に料理をしてみたり、何かしらコミュニケーションができるようなイベントをやってみたりとか。五感を刺激して、よりメッセージが伝わるようなことをしてみたいと考えています。

あくまで音や映像は何かを「伝える」ためのツール。バイノーラル録音もそのひとつです。僕は特に、音の専門家になりたいというわけではありません。

人間が五感をフルに活用できるような映像を制作したいと考えています。

Text: Yuka Sato / Photograph: Shunsuke Imai

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