
「1秒ずつ魂を込めて作曲しました」
そう語るのは、八景島シーパラダイスの新ナイトショー「LIGHTIA(ライティア)」のサウンドデザインを担当した齊藤耕太郎氏だ。LIGHTIAは、イルカの動きとプロジェクションマッピングやサウンドが同期する、細部までこだわられたナイトショー。このショーで使わるサウンドは、齊藤氏のオリジナル曲『Love Song』をメインテーマに、約23分のショータイムに合わせて制作している。
今回はそんな齊藤氏と音楽の出会いから、ナイトショーのサウンドデザインを担当した経緯、作曲家・音楽プロデューサーとしてどのようなマインドで音楽を生み出してきたのかを伺った。
齊藤耕太郎 作曲家・音楽プロデューサー
Spotify: https://open.spotify.com/artist/6VWKUdCo8AEhrI1WH8YWdX?si=AjQL1PpSR2KSViQGpSLWxA note: https://note.mu/kotarosaito

——齊藤さんは現在作曲家・音楽プロデューサーとして活躍されていますが、作曲に興味ををもったのはいつからでしょうか?
齊藤氏: 中学3年間の頃です。当時、父の仕事の都合でインドに住んでいたのですが、日本にいた時に好きだったドラマの夢を見て、夢の中では聴いたことのない曲が主題歌として流れていたんです。
夢の中に出てきた曲を再現したいと思い、ピアノを弾きはじめました。これが作曲をしたいと思った一番はじめのきっかけです。
——なぜピアノを弾くという手段をえらばれたのでしょうか。
齊藤氏: 僕はずっと野球が好きで、楽器に関しては全くの初心者だったのですが、家にたまたま電子ピアノがあったんです。「野球少年がいきなりピアノを弾き始めたら面白いだろう」と思い、家族や友達には言わず、隠れてピアノを練習していました。

齊藤氏がもっとも気に入っているヴィンテージシンセサイザー「Prophet-5」
——なぜ、周囲に隠しながら練習していたのでしょう?
齊藤氏: 僕にとっては、人に喜んでもらえたり驚いてもらったりすることが、何か行動するときの強い原動力だったんです。家族が寝静まった後に、自宅にあった電子ピアノでベートーヴェンの『月光』を独学で練習し、友達や家族に披露して驚かせていました。みんな「天才か!」って驚いてくれるんです。この成功体験が「音楽って面白いかも」と初めて音楽に興味を持ったきっかけでした。
——中学生でピアノを起点に音楽に興味を持ち、その後はどのような音楽を志向していかれたのでしょうか。
齊藤氏: ピアノは引き続き興味の中心でしたね。ただ、そこへロックから大きく影響を受けました。高校生のときはイギリスのロックスターであるQUEENにどハマりし、フレディ・マーキュリーに憧れていました。彼は稀代のエンターテイナー、シンガー、作曲家であると同時に、とても優秀なピアニストなんです。
彼らの音楽性である「ピアノとロックの融合」という考えが自分の中にもあり、その姿勢は今の作曲活動にも大きく影響を与えています。ジャンルに縛られず、さまざまなカルチャーをまたぐような音楽を世に生み出したいと思っているのも、彼らの存在があったからです。
——大学時代はどのように過ごされたのでしょうか。
齊藤氏: とにかく、自分の曲を聴いて欲しい一心で活動を広げていました。大学進学と共に上京したのですが、まずは自分の作った曲を演奏できるサークルを探しました。しかし学内でオリジナル曲を共に作って表現する場になかなか出会えず、学外へ活動の場を広げ、服飾専門学校生のファッションショーで自分が作った曲を流したり、デモテープをレーベルに送ったりしていました。その中で、2社ほどからデビューしないかと声をかけられたんです。
——いよいよ音楽家としての活動をスタートされるんですね。
齊藤氏: いえ、一旦は普通に就職する道を選びました。音楽家として生きていくのは簡単なことではありません。いざ選択肢として音楽家の道が現れた時に、どうすれば生活できるのかを本格的に考え出すと、一旦社会のことをしっかり学び、業界全体を俯瞰してチャンスを自分自身で探りたい。そう思って、博報堂へ就職しました。
博報堂では、どのような戦略で広告施策を進めていくべきかデータを元に考え、クリエイティブ・マーケティング・メディアなど様々な立場の一流メンバーと共に仕事をしたことで、説明力や論理的思考が身についたと思っています。

——すると、独立は博報堂での経験を積んだ後に?
齊藤氏: 5年ほど勤めた頃ですね。仕事をしながらリリースした初めてのアルバムなど、自分の作品を人に知ってもらう機会が少しずつ作れてきた時期でした。博報堂での仕事も基礎的なことは一通り経験できたと思えたタイミングで、人との出会いもあり、覚悟が決まって独立しました。
——今回、八景島シーパラダイスの新ナイトショーの音楽を手がけることになったきっかけを教えてください。
齊藤氏: 何度も一緒にお仕事をしている、ショーコンテンツやアニメーション作品などの企画・演出・制作を行う株式会社LILの皆さんから相談いただいたのがきっかけです。兼ねてから聴いていただいていた僕のオリジナル楽曲『Love Song』をメインテーマに、誰も見た頃のないスペクタクルなショーを一緒に作りたい、と仰っていただきました。
今回のイルカショーのリニューアルによって、以前から力を入れているプロジェクションマッピングなどのテクノロジーを駆使したイルカショーを、他に追随を許さない圧倒的かつ感動的なショーへと昇華したい。という八景島シーパラダイスの社運をかけた意気込み、そしてそれらをLILの皆さんに託したことを強く感じました。僕自身にとっても自らの音楽作品を、そんなショーのメインテーマに抜擢していただいたこともあり、「絶対に成功させねば」と強く思いました。
——ナイトショーの音楽は、どのようなステップで制作していったのでしょうか?
齊藤氏: CM音楽制作における多くの場合、音楽は演出領域を担います。企画が決まり、演出の方向が固まりだした頃に初めて、音楽の相談をいただきます。しかし今回のプロジェクトでは、ビジュアル、そしてイルカに指示を出すトレーナーの皆さんの羅針盤となる音楽を、企画が決定した直後から制作開始しました。イルカのトレーニングをするにも音楽がなければいけない。約23分間のショーにおいて、どのシーンの、どの瞬間で、イルカに動きを指示したいのか。総合演出を担当した橋本大佑さんたちとしっかり擦り合わせをし、楽曲制作に入りました。
今回メインテーマとなった『Love Song』は、友人を介してたまたま送られてきた動画で歌っていたMAYUMIさんに歌っていただきました。圧倒的な表現力と、非常に伸びやかで広い音域の持ち主である彼女。「この人の魅力が伝わる曲を書きたい」という想いを込めて、メロディを紡ぎ、トラックを作りました。作詞を僕の音楽仲間であり、LIGHTIAのナレーションも書いていただいたSAYUKIさんに相談。トラックはMAYUMIさんを紹介してくれた音楽プロデューサーの石坂翔太くんと相談しました。演奏は、人気ヴァイオリニストの相知明日香さんにしていただき作りました。サウンドについては半年ほど試行錯誤を重ねています。
そんな楽曲を軸に、総合演出を担当した橋本さんが考えるストーリーに寄り添い全体を構成していきました。『Love Song』のメロディやコードを分解・再解釈して、ロマンティックなバラードにしたり、近未来的なエレクトロニックサウンドにするなど、観る人が一瞬でも覚め止まないファンタジーを描くべく持てる音楽性の全てを注ぎ込みました。LILの皆さんとは音楽的なコミュニケーションが非常に取りやすく、言語化しにくい音楽表現への的確なフィードバックをいただきながら、ベストと言えるものができたと思っています。
——制作期間は合計でどれくらいかかったのでしょうか。
齊藤氏: 1年ほどかけて『Love Song』を完成させたのち、プレゼン含めると約4ヶ月、一切間が空くことなく駆け抜けました。「いい音楽だったね」「プロジェクションマッピングが綺麗だったね」だけで終わらない感動を届けるために、クリエイティブに関わる数々のスタッフの皆さん、イルカに指示を出すトレーナーの皆さん、そして僕の自慢である最高の演奏者チームの仲間たちと何度も議論を重ね、共に作り上げました。
——まさに、大作ですね。出来上がったショーはご覧になられましたか?
齊藤氏: もちろんです。今まで見て来た中でかなり完成度が高いナイトショーでした。最新の技術を駆使した特殊なシステムによってプロジェクションマッピングやレーザー等の視覚効果と音響効果が、イルカの動きとリンクするため、グッと引き込まれる新感覚のナイトショーになっています。

——去年はCM音楽に限らずオリジナル曲リリースや水族館のナイトショーのサウンドデザイン、舞台作品の音楽など多岐にわたる活躍でしたが、今後はどのような方向に活動を広げてこうとお考えですか?
齊藤氏: 『KOTARO SAITO』の音楽を広く知ってもらえるような活動にまずは注力していきたいと思っています。そのためにクライアントワークに加えてオリジナルワークも力を入れていかなければいけません。
——なぜオリジナルワークが重要なのでしょうか?
齊藤氏: オリジナルワークは「なぜ自分はこの曲を作るのか」という目的やゴールを自らセットし、音楽と向き合わなければいけません。答えがない中で、自分の音楽性と向き合うことは、僕にとっては作曲家人生を賭けて続けていかなければいけないことだと感じています。
昨年リリースしたアルバム『BRAINSTORM』は、前作から5年の歳月をかけて成長してきた音楽性を、どのようなテーマで1つのアルバムとして成立させるかを考え抜いて作った作品です。CM音楽のプロデュースや作曲を通じて得てきた数々のアプローチやテクニック、何より出会ってきた多くの才能あるアーティストやクリエイターの力を全て注ぎ込んで、聴き手の創造性をブーストさせる「アイデア起爆剤」になりたいという想いのもと、リリースしています。
——2019年はどのような活動を予定されていますか?
齊藤氏: 2018年は、ありがたいことにオリジナルアルバム『BRAINSTORM』の収録曲「秒の間」「Brainstorm」がSpotifyのバイラルトップ50で1位、2位を獲得させていただき、少し前の自分からは考えられないくらい多くの人に音楽を聴いてもらえました。2019年はこの動きをより活発にし、自分の音楽をより世界中に届け、曲を聴いた人を違う世界に連れていけるような楽曲を制作したいと思っています。
——オリジナル曲も楽しみです。
齊藤氏: ありがとうございます。2月からは毎月オリジナル曲をリリースしています。2月の『Poem, Poetry Or Not』の2曲、3月の『Blue』も既にSpotifyだけで3曲揃って万単位の再生をしていただきました。チェロによるデュオ2CELLOSとの競演でも知られ、CM音楽業界の重鎮作曲家である内山肇さん、僕の音楽作品をほぼ全てミキシングいただいている巨匠エンジニアの鎌田岳彦さんと連名でコラボレートした4月分の曲『Memento』はリリース準備を終えています。これまで続けてきた音楽生活の第1章が完結したと思えるくらいの楽曲に仕上がりました。毎月一歩ずつ、着実に階段を登るつもりで活動していきたいと考えています。

Text: Natsumi Kubota / Photograph: Shunsuke Imai