
週3で株式会社ビースタイルの広報として働き、週4でコンテンポラリーダンサーとして活躍している柴田菜々子さん。一般企業の正社員と、プロダンサーという両立が不可能に思えるライフスタイルを「踊る広報」として見事に実現させた彼女は、2018年10月に異色なイベントを実現させた。 東京都・高円寺の銭湯「小杉湯」で、コンテンポラリーダンスを披露したのだ。客席は浴槽と脱衣所。ステージは、本来走ることも禁止されている髪洗い場だった。 自身のライフスタイル同様、彼女はどのようにして、一見相容れないと思えるものを掛け合わせる視点を身につけたのか?

━━柴田さんは、小学生の頃から就活生になるまでずっとダンス一筋で取り組んできたのですよね。なぜ就活をする気になったのですか?
もともとは、就職なんて私には出来ないって思っていたのであまり就職活動にフォーカスしていなかったんです。勉強も出来ないし、大学もダンスの専門学部を選んで入学していますし、ダンスしか出来ないから無理だろうなって。 でも大学時代のバイト先がバーだったので、会社を経営している方や、会社員さんと話す機会が増えて、仕事の話を聞いているうちに「こんなに熱量のある方々がいるんだ!よく知らなかったから、サラリーマンって夢のない職業だと誤解していたけれど、自分の仕事で何かを変えようとしている人たちってかっこいい」。って思うようになったんです。もともと好奇心旺盛で、気になり始めると止まらないんですよね(笑)
その出来事があってから、色んな会社や業種を知りたくなって、とりあえず3ヶ月間は就活に注力することにしました。
━━実際に就活を始めてみて、どうでしたか?
私、好奇心自体はあるんですけど、がっちりハマるものは少なくて。色々見たんですけど、居心地が良いと思えるのが人材系の会社だけだったんです。選考残るのも人材だけで(笑)今の会社と出会ってからは、すごくスムーズに採用まで決まって新卒入社することになりました。ご縁ですよね。
━━正社員で入社を決めた時は、ダンサーとしてはもういいかなって気持ちだったのですか?
え、全然諦めてませんでしたよ!すごく楽観的だったので、会社員になったとしても土日は踊れるわけだし、「両立できるでしょ」って思ってました。
━━えっ。すごいパッションですが、かなり大変な生活になったのでは……?
大変でした(笑)。トライしてみたんですけど、やっぱり厳しくて。入社して2年経ったときに限界を感じたので、退職すると代表三原に話したんです。ダンスの道でやっていこうと思って。 そうしたら、全然予想してなかったんですけど「やめておけ」って反対されたんです。びっくりしました。

━━それは、会社員の方が安定しているからですか?
あ、そうではなくて……代表に「10年後のビジョンを語ってみろ」って言われて、私答えられなかったんです。こうだと思ったらこう!って突っ走っちゃう性格で、仕事辞めてもアテがあったわけではないし、バイト探さなきゃって状況だったので。
それを見透かしたように、「ビジョンのない奴は失敗する。ダンスも仕事も続けられる方法を考えてみろ」と。その言葉を聞いて「欲張ってもいいのかもしれない」と初めて思えたんです。 「週3勤務で週5の成果を出す」ということを自分で決め、それをどう実現するかのプランを提出したら、「挑戦してみたらいい」と言ってくださって……踊る広報、という私のポジションができました。

━━週3勤務で週5の成果を出す、という仕事のミッションを決めたように、ダンスの取り組み方にも何か決めたことはありましたか?
ありました。両方続けられるかもって思ってから、もう一度自分はダンスという世界でどんな役割として活躍したいのか、どうなるのが理想なのかを考えて整理して……この2つが自分の中で明確になりました。
・ダンスは続けるが、ダンサーがゴールではない ・将来的にダンス業界そのものに関わり、インパクトのあることをやりたい
━━インパクトのあることをやりたい、とは?
コンテンポラリーダンスって、ダンス界の中でもかなりニッチなんです。舞台に来てくれるのはだいたい業界の人たちばかりで、ダンスに興味のない人は「コンテンポラリー」って言葉自体を知らない人も多くて、社会人になってから改めて、ものすごく閉ざされた世界だと痛感したんです。 こんなに狭い世界のままじゃ若手の名前も広めていくのが難しいし、発展していく兆しが全然見えないのはすごく悲しいなと思って。ダンスに興味がない人へも届くような、興味を持ってもらえるようなことをしたいって思いました。

━━クラウドファンディングで話題になった、「踊る銭湯」もそういう思いからだったんですね
そうなんです。コンテンポラリーダンスを知ってもらうには、まず「踊る場所」を変える必要があると思って。敷居が高いっていうイメージも払拭したかったので、もっと暮らしに身近で、掛け合わせるのに意外性があって、普段と全然違うお客さんを呼べるような場所……そうだ、銭湯があるじゃん!!って(笑)
━━斬新なチョイス!(笑)2年以上広報として活躍してきた柴田さんだからこそ、の発想ですよね
そうですね、広報として仕事してきて本当に良かったって日々思うことばかりです。どうしたらもっとたくさんの人に伝わるのか、見てもらえるのか、メディアに取り上げてもらえるのかばかりを考えてきたので、それって表現の世界であるダンスでも重要な発想だったんです。今回のイベントも、読売新聞・朝日新聞・J:COMさんが取り上げてくださったんですよ! 広報とダンスには共通するものがあるって、「踊る広報」になってから気づきました。


━━実際、銭湯で開催してみてお客さんの反応はどうでしたか?
とっても良かったです!観客の皆さんにも一緒に楽しんでもらえるように、桶のケロリンを配って、音楽に合わせて叩いてもらうアクションとかも取り入れて(笑)
ダンスを見て終わりになるのは寂しいので、コンテンツもいくつか準備していました。デザイナーのKIIMANさんにオリジナルグッズを作ってもらって、作品を展示したり、バスボムを作るワークショップも開催したので、それには親子で参加してくれる方が多かったです。
舞台となった「小杉湯」さんが、地域に根付いたコミュニティの場だったことも大きいです。地元方々が遊びに来てくれたので、コンテンポラリーダンスと全然触れたことのない人たちにたくさん届けられたかなと思います。

━━これからも「踊る広報」として、新しいコンテンポラリーダンスの企画を続けていきますか?
もちろんです!続けていかないと意味がないと思っているので、銭湯に限らず、もっとコンテンポラリーダンスを身近に感じてもらえるように「踊る広報」として活動していきたいと思います。
柴田菜々子 踊る広報
https://www.foriio.com/shi7nana
