「どんな作品にも私らしい視点をひとネタ仕込んでいます」
目をきらきらさせて作品を語る姿は、まるで夢でみたことを話す子どもそのもの。 独自の世界を繰り広げる動物キャラクターをユーモラスに描くアニメーター/イラストレーター・misato.氏。月5本以上、次々と作品を発表する同氏のtwitterはフォロワー数、4万5000人を超えた。今回は同氏傑作GIFアニメーションを集めた3分間動画、『gif animation works』を題材に、活動を始めたきっかけやアイディアの源泉、内なる想いを伺った。
高校を一浪した頃からアニメーション制作は始めました。当時作っていたのは色のない世界で、色を手に入れた3人が街の中のものを彩っていくような作品です。アニメーションの知識がなかったので、パラパラ漫画の延長みたいな感じで一枚一枚鉛筆で書いて、色鉛筆で塗っていました。
嬉しかったのは、予備校時代の文化祭で出展した作品が優勝したこと。映像の前で立ち止まってくれる人や、「ずっとみていられるよ」と声をかけてくれる人がいて、アニメーションでの表現は自分に向いていそうだと手応えを感じていました。
大学で就活していた頃は漠然と絵に関わる仕事をしたいと思い、無謀にもゲーム会社等受けて全滅しました。結局、就職先が決まらないまま卒業し、1年後にやっと映像制作会社でアルバイトをし始めました。
はじめは映像制作の進行、その後、部署を転々としロゴなど既存の図形や文字を動かすモーショングラフィックスを担当しました。仕事に追われていたある日、上司に「会社の中だけですごい人になっても意味がない。とりあえず外に作品を発表しなさい」と声をかけられ、twitterにオリジナルワークをアップしはじめました。2015年頃だと思います。
最初の頃は、自分のスタイルをどう見つければいいか迷走して焦っていました。絵柄がどこかでみたことがある、人の真似のように感じて、描けなくなった時期もありました。
何から手をつけていいかわからない私をみて上司が「好きなものをもっとみなさい、そしてなぜ好きなのかを考えなさい」とまた声をかけてくれて。とりあえず好きな線や色使い、素材を集めて自分の絵に起こしていきました。そうすると徐々に周りから「絵に個性がある」と言われ始め、自分の絵柄が決まっていったんです。
絵柄の方向性が決まってきたころ、次に悩んだのがTwitterにあげるネタです。当時、私は自分のアイディアはつまらないものだと思い込んでいましたが、たまたま家のトイレで思いついたイメージを描き起こしたらTwitterで予想を超える反響があり「思いついたことを描き起こす」方向性はひょっとしたら面白いのかもしれないと気が付きました。なので、トイレの絵が私の世界観のきっかけです(笑)
私のイメージを私が描くのだから、これは私の絵だって思い込む。そうしたら、ずっと持っていた焦りは少し楽になりましたね。
misato.さんに初期の作品を見せてもらいました。キリンの首は蝶ネクタイが一つじゃ足りないよね、たれ耳の犬はダンボみたいに空を飛べるかも等ちょっとした思いつきから作品作りを始めていたそうです。
実は私、飽き性なんです。なので制作に3ヶ月もかかるような短編映像とかは続けられる気がしませんでした。仕事を普通にしているので、帰宅後だけだと物理的に作業時間も取れないですし。
だから、GIFを選びました。GIFは様々な制約があります。短く、音がなく、容量の軽いループ画像。この制約があるからこそ、今の制作スピードと”みじかく、おもしろく”という自分のこだわりが見いだせたのだと思います。
Twitterでの活動を始めた頃は、帰宅後11時から深夜までつくってアップロードするなんてザラでしたね。今は違います。もう少し自分の時間を取りたかったことと、本職でもアニメーション制作に携わりたいと思っていたときに、ちょうど私の活動を知ってくれたいまの社長からFacebook経由で声をかけてもらい転職をしました。社長がオリジナルワークにも時間をかけたいという私の気持ちを尊重してくれて、時間の使い方が以前より柔軟になったので作業時間を確保できています。
あと、オリジナルワークと呼んでいただいていますが、そこまで気負って作っているわけではないです。作画や書き込み、着色など甘い部分がたくさん残ったまま発表しています。一作品だいたい3,4時間しか時間がとれないからこそ、私がTwitterに上げる作品は面白さが伝わることがまず大事だと思い、どの表現を強調するか決めて、あとは適度に力を抜いています。
”ひとネタ仕込む遊び心”は大切にしています。CMディレクターの中島信也さんが「プラスαの感情をつけられるようにしてほしい」とおっしゃっていたのが印象に残っているからかも。作品をみたときに「かわいい」とか「きれい」だけの感想じゃなく、ちょっと心をくすぐられるようなひとネタを差し込もうとしている自分がいます。それこそ、ダジャレでもいいんです、サムイと思われることも、表現の仕方でめっちゃおもしろいものになりますから。
歩いていたり、友人との話しを通してだったり。世の中の色んな所にアイディアのタネがあります。そうですね、、、例えばこのボルト?ナット?なんていうんですかね。これは形がレゴブロックに似ているなとか、ナットって音感がラット(ねずみ)に似ているな。とかそんなことをメモしています。
あとよく人に「今日の帰り気づいたことを教えて」と尋ねます。その人が思ったことと私が思うことは違う。この人だったらこう思うかもしれない、という「●●かもしれない」と思ったことをどんどん広げていこうとしています。
おもむろに取材場所を見渡し、ナットに注目されたmisato.さん。その後、奥に見える窓の取っ手も表現の対象に。
いえ、むしろ今のほうが想像力が膨らんでいる気がします。私、親御さんがお子さんの言動をツイートしているとつい読んで、子どもって純粋だなって感心しちゃうんです。当たり前がないというか。ただ、私は当たり前を知っているからこそでるアイディアもあると思って、日々表現を探しています。
ネタ帳はどのページもアイディアやメモがびっしりと書かれていた。一つ一つのアイディアを指さしながら楽しそうに話されているmisato.さん。
私の認知が上がったバズ作品ということもありますが、特に海外の方にも届いた驚きがあります。海外の方には「ネタ」と「寝た」っていう言葉遊びは伝わっていないと思いますが、題材がお寿司だったこと、GIFの動き、ビジュアルがわかりやすかったからかもと自分では考察しています。
あと、ものづくりにおいて制作過程がわからない作品って言葉にできない力があります。この作品はGIFのループの流れが途切れないです。たった6枚の原画ですが、それでこんなにも人に響くものができるのだと可能性を感じたからこそ代表作に選びました。
寿司ネタ(寝た)の原画。たった6枚で世界に届いた作品になった。
それこそ、言葉がなく、絵で伝わるGIFに挑戦しています。LINEスタンプにもした「ギョウザウルス」は「寿司ネタ(寝た)」に続くかなと思いましたが、餃子自体が海外の方に馴染みがないのか響かなかったですね。日々トライアンドエラーです。
あと、GIFの展示会をしていたいと思っています。入り口を決めない、GIFの特徴であるループ感を体感できるようなどこからみ始めても楽しめる展示方法をいまは構想段階ですがぜひ開催したいです。
misato. アニメーター/イラストレーター
1989年生まれ。 武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。 在学中から武蔵野美術大学卒業展示優秀賞を受賞するなど精力的な活動を続け、近年は都内アニメーション制作会社にて、CM、Web動画などのアニメーション制作に従事。イラストレーション、アニメーションにとどまらず、造形作品の制作も行うなど活動は多岐にわたる。自身のtwitterにて作品を発表し続け、独自の世界観で多くのファンを獲得。GIFMAGAZINE公式クリエイターとしての一面も持つなど活動の場を広げている。
受賞歴「ISCA2013佳作」「第16回DigCon6 Unque Animation賞」「武蔵野美術大学卒業展示優秀賞」など
misato.さんの作品はこちら https://www.foriio.com/misato08280 Twitter https://twitter.com/misato08280
Text: Wakaba Yamaguchi / Photograph: Aya Oshima