グレーの地に金に縁取られた深緑と、社名であり創業者の名前であるジョセフ・バルドゥー(Joseph Bardou)の”Jo”と”B”をとったJOBという大きな文字が画面上半分に浮かぶ。その文字を大胆に遮って右手で優雅にタバコを持ち、うっとりとした表情をしてい女性が描かれている。タバコからでる煙はJOBの文字を取り巻くようにジグザグ模様を描いて画面の上端に達している。女性の髪は大胆に誇張されてOの字ほとんど隠さんばかりに上に向かって渦巻いている。
この、ポスターの最高傑作ともいえる「JOB」は比較的小型のポスターですが、絵にはミュシャの驚くべき才能が大く渦を巻いています。「JOB」の文字が女性の頭で隠れているにもかかわらず、髪のなびきやアクセサリーの赤がさらに髪を印象づけ、JOBの文字を記憶させる効果を高めています。このポスターがいかに丁寧に計算された構成デザインかがわかります。
女性の髪が金に塗られ、それが画面内で縦横無尽にからまり合う様は当時のパリで流行していた日本の金蒔絵を思い起こさせます。浮世絵の最盛期は、アール・ヌーヴォー期よりさらに100年前、写楽や歌麿が活躍していた時代でした。私たちが日本髪と呼んでいる高く豊かに結いあげる髪型が広まったのもその頃で日本髪といえば簪、櫛、笄などのヘア・アクセサリーです。歌麿らが女性を半身で描き、何か持つ手のしぐさと目線に特徴があるのも本作品と共通しています。
