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日本初上陸 ! ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル開催

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日本初上陸 ! ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル開催
不要不急ではなく常に“要急”な舞台芸術学 世界の先鋭的な振付作品が勢ぞろいするモダン/コンテンポラリーダンスのフェスティバル「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」が、この秋ついに日本で初開催される。 ハイジュエリーメゾンのヴァン クリーフ&アーペルが、なぜダンスを支援するのか? そして、10月から11月まで1カ月以上にわたるプログラムの見どころは? メゾンの歴史とダンスとの関係を辿りながらご紹介しよう。 ヴァン クリーフ&アーペルとは ヴァン クリーフ&アーペル(Van Cleef & Arpels)は、パリ五大宝飾店(グランサンク)に名を連ねるハイジュエリーメゾンである。「愛・美・夢」をテーマに、独創的な比類のないジュエリーや高級時計のコレクションを展開し、モナコ皇室御用達ブランドとしても知られるなど多くの王侯貴族や大富豪などセレブリティーたちを魅了してきた。 そもそもこのメゾンの歴史は、1895年にフランスのパリで宝石商の娘であったエステル・アーペルと、ダイヤモンド商で宝石細工職人の息子アルフレッド・ヴァン クリーフの結婚を機に始まる。1906年には、アルフレッドとともにエステルの兄弟シャルルやジュリアンが事業に参加し、パリのヴァンドーム広場22番地に本店ブティックをオープンした。さらに1908年にはエステルの弟ジュリアンが、1912年には末弟ルイが参加し、ビジネスを確固たるものにしていった。 インスピレーションの源となったバレエ メゾンがダンスと深く関わるようになったのは、末弟のルイ・アーペルが熱烈なバレエファンだったことが大きい。ルイは1920年代頃から、甥クロードを連れては店からほど近いパリ・オペラ座へしばしば通った。その後、この二人が中心となり、1940年代初頭からニューヨークで初のバレリーナ クリップを制作するようになった。 クラシックバレエは、インスピレーションの源として、ヴァン クリーフ&アーペルの重要な伝統となっています。その歴史は80年以上前に遡り、1940年代にはこのテーマから着想を得て、メゾンのダンサー クリップの作品が誕生しました。ダンスという動きの芸術の真髄がジュエリーに反映され、最も貴重な素材によって身振りやポーズが生き生きと表現されています。下絵から宝石の選別、ワックスの彫刻から金属の成形に至るまで、メゾンの女性像に命を吹き込む作業は、職人たちが一体となって成し遂げる偉業と言えます。 クラシックバレエは、ヴァン クリーフ&アーペルのインスピレーションの源となり、重要な伝統として受け継がれていく。バレエ作品に登場するバレリーナをモデルにした優雅さ、繊細さ、躍動感が、アトリエの“マンドール(黄金の手)”と呼ばれる熟練の職人たちによって再現され、ジュエリーコレクターを魅了した。こうしてバレリーナ クリップは、瞬く間にメゾンを象徴する作品シリーズとなった。 戦後アメリカで強まったバレエとの絆 バレエファンだったルイ・アーペルに連れられてパリ・オペラ座へ通った甥のクロードは成長し、第二次世界大戦後のアメリカ・ニューヨーク五番街でブティックを任されるようになった。叔父と同様にバレエに造詣が深かったクロードは、ここで振付家のジョージ・バランシンに出会い、親交を結ぶことになる。 ジョージ・バランシン(1904-1983)といえば、近現代のダンス史を語るうえで欠かせない重要な振付家である。それまでのクラシックバレエから物語性を排し、純粋に身体の動きを抽象的に追求したプロットレスバレエ(物語のないバレエ)を生み出し、モダンダンスや後のポスト・モダンダンス、コンテンポラリーダンスに多大な影響を与えた。 バランシンは亡命ロシア人だったが、渡米してニューヨーク シティ バレエ団(NYCB)の共同創設者となっていた。1940年代末にバランシンは、ヴァン クリーフ&アーペルのブティックのショーウィンドーを熱心にのぞき込んでいた。それは妻であり、ダンサー・俳優であるヴェラ・ゾリーナの踊る姿をモチーフにしたバレリーナ クリップを、妻本人に贈るためだった。 この時、バランシンにはある着想が浮かんだと伝えられている。物語がなくても「人間の動きはそれだけで美しい」と確信するバランシンは、「そのままで美しい宝石」をテーマにした新作バレエを構想した。そんなバランシンと親交を持ったクロードは店の貴重なジュエリーを見せ、バレエ作品の創作を薦めたともいわれている。 そうして誕生したのが、1967年NYCBで初演されたバレエ作品『ジュエルズ』である。宝石に着想を得た全3幕からなり、第1幕「エメラルド」にはガブリエル・フォーレ、第2幕「ルビー」にはイーゴリ・ストラヴィンスキー、第3幕「ダイヤモンド」にはピョートル・イリイチ・チャイコフスキーと、それぞれの宝石にひとりの作曲家の音楽が当てられた。 革新的な振付家支援のプロジェクトを開始 メゾンのダンス芸術に対する深い敬意と絆は長年にわたり、革新的な振付家をサポートするための活動は今日まで続いている。 2012年からは、フランス人ダンサー・振付家のバンジャマン・ミルピエとのコラボレーションをスタート。ミルピエは、2014年~2016年パリ・オペラ座の芸術監督を史上最年少で務めたことで知られる気鋭のアーティストだが、それ以前にNYCBのプリンシパル時代(2002〜2011年)にはバランシンの『ジュエルズ』を踊ったこともある。NYCBの退団後、ミルピエがロサンゼルスで創設したクリエイター集団「L.A. Dance Project」ではメゾンのサポートを受け、 『Reflections』(2013年)、『Hearts & Arrows』(2014年)、『On the Other Side』(2016年)から成る3部作「Gems」に加え、2019年にはバレエ『Roméo et Juliette』を創作している。 さらに欧州でオペラやダンスを支援する公共団体「Fedora」(フェドラ)とのパートナーシップを通じて、振付創作分野における革新や若い才能の育成を促進。2015年から「FEDORA-ヴァン クリーフ&アーペル バレエ賞」を創設し、1年に1度、創意ある優れた作品を対象に表彰している。 「ダンス リフレクションズ」を始動 2020年代以降、メゾンは世界有数の機関とも提携。ダンスの振付芸術を文化的遺産として継承し、モダン/コンテンポラリーダンス作品の創作を促進する支援プロジェクト「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」が始動した。 このプロジェクトを強力に推進しているのは、前プレジデント兼CEOのニコラ・ボスと、ダンス&カルチャー プログラム ディレクターを務めるセルジュ・ローランである。 特にローランは、カルティエ現代美術財団(パリ)のアソシエイト・キュレーターを経たのち、約20年にわたってポンピドゥー・センター(パリ、マラガ、ブリュッセル)で舞台芸術企画部門の責任者だった人物。2019年4月にヴァン クリーフ&アーペルに参画した。プロジェクトを推進する知恵袋といったところだろう。 「ダンス リフレクションズ」では、振付芸術の伝統を次代へと継承するため、アーティストや劇場などのダンス関連団体を支援するとともに、新たな作品制作を奨励することを目的としている。そのために掲げられているのが「創造」「継承」「教育」の3つの指針だ。 「創造」は、現在活躍中の振付家に寄り添うとともに、新作の制作に積極的な団体を支援すること。 「教育」は、フェスティバルのような大きなイベントにおいて、主要なモダン/コンテンポラリー作品から新作までを上演し、幅広い観客層に向けて質の高い多彩なプログラムやワークショップに触れる機会を提供すること。 「継承」は、ダンスの歴史と文化に対する一般の人々の関心を高めること。 その具体的な事業として、毎年世界の各都市でダンスのフェスティバル「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」を開催してきた。2022年のロンドン、2023年の香港とニューヨークに続き、2024年はいよいよ日本で開催される。 日本初開催「ダンス リフレクションズ」の見どころは? 日本初の「ダンス リフレクションズ」は、2024年10月4日から11月16日まで1カ月以上にわたり、京都と埼玉で開催とされる。「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2024」、ロームシアター京都、彩の国さいたま芸術劇場との提携により、大胆な試みに挑戦するダンスの俊英たちの作品が続々と来日する。それぞれの見どころを簡単にご紹介しよう。 ●アレッサンドロ・シャッローニ『ラストダンスは私に』 イタリア・ボローニャ地方で継承されるフォークダンス「ポルカ・キナータ」を探究したアレッサンドロ・シャッローニの作品。かつて人気を博したものの現在では消滅の危機に瀕する男性の求愛ダンスの復興と普及を目指したデュエットパフォーマンス。京都芸術センター(講堂)で10月5日、6日 / 午後4時に公演。上演時間30分。 ●(ラ)オルド、ローン with マルセイユ国立バレエ団『ルーム・ウィズ・ア・ヴュー』 マドンナやスパイク・ジョーンズといったビッグネームとコラボし「ポストインターネットダンス」を追求するアーティスト集団「(ラ)オルド」と、フランスのエレクトロニック・ミュージックの第一人者ローン、マルセイユ国立バレエ団により、2020年フランスのパリ・シャトレ座で制作した作品を日本初演。12カ国20人のダンサーたちからほとばしる圧倒的なエネルギーと、全編にわたって並走するローンの音楽が分かちがたく融合する。ロームシアター京都(サウスホール)で10月5日、6日 / 午後6時に公演。上演時間80分。 ●オラ・マチェイェフスカ『ボンビックス・モリ』 近代の先駆的なパフォーミングアーティストであるロイ・フラーが、1892年に創案したダンス「サーペンタインダンス」は、初めて電気照明を使用し、身体を覆ったシルクの布をうねるように動かして、光とマテリアルのスペクタクルを展開した。フラーのダンスからインスピレーションを得たオラ・マチェイェフスカは、3人のダンサーのための作品を制作。タイトルの「ボンビックス・モリ」とはラテン語で蚕の意味で、ダンス、過去の記録、技巧性を織り交ぜたハイブリッドのメタファーを生み出す。ロームシアター京都(ノースホール)で10月11日 / 午後7時、10月12日 / 午後4時30分に公演。上演時間60分。 ●オラ・マチェイェフスカ『ロイ・フラー:リサーチ』 同じくオラ・マチェイェフスカが、ロイ・フラーの「サーペンタインダンス」に取り組んだ研究を基に制作。身体を通してダンスをアーカイブ化することにより、振付の歴史、その継承と解放に独自の視点をもたらす。京都芸術センター(講堂)で10月14日 / 午後6時30分に公演。上演時間 40 分。 ●クリスチャン・リゾー『D'après une histoire vraie(ダプレ ユヌ イストワール ブレ)―本当にあった話から』 2015年より南仏モンペリエの国立振付センター ICI-CCNのディレクターを務めるクリスチャン・リゾーが、イスタンブールの路上で即興で踊る男性たちのフォークダンスからインスピレーションを受けて制作した作品。8人のダンサーと2人のドラマーが、「男らしさ」という伝統の悪徳と現代性の分裂を繊細に解消するダイナミックなダンス。2013年にアヴィニョン演劇祭で初演以来、世界中で上演されてきたレジェンド的作品が待望の日本初演。京都芸術劇場 春秋座で10月12日&13日 / 午後7時、彩の国さいたま芸術劇場(大ホール)で10月19日 / 午後7時、10月20日 / 午後3時に公演。上演時間60分。 ●マチルド・モニエ & ドミニク・フィガレラ『ソープオペラ、インスタレーション』 振付家マチルド・モニエと画家ドミニク・フィガレラが2009年に共同制作した振付作品「ソープオペラ」 の新バージョン(2014年初演)。徐々に広がりゆく動く泡という素材を空間の中心に置き、ドラマチックな緊張感をもってパフォーマンスが繰り広げられる。ダンスとビジュアルアートの密接な関係を描いた作品。ロームシアター京都(ノースホール)で10月18日 &19日 / 午後7時、10月20日 / 午後4時に公演。上演時間45分。 ●ラシッド・ウランダン / シャイヨー国立舞踊劇場カンパニー『CORPS EXTRÊMES(コール エクストレーム)-身体の極限で』 2021年、パリのシャイヨー国立劇場ディレクターに就任したラシッド・ウランダンが、「飛行、無重力、宙づり、飛翔といった概念が引き起こす魅惑に焦点を当てたい」と着想したアクロバティックな作品。綱渡り(ハイライナー)とクライマーといったエクストリームスポーツのアスリート2人が、8人のアクロバットパフォーマーと出会い、クライミングウォールや上空に張られた長いロープの上で目もくらむようなパフォーマンスを繰り広げる。2人のアスリートのナレーションも重要な役割をはたし、現実に根差しながらも夢のような作品。彩の国さいたま芸術劇場(大ホール)で10月26日 / 午後7時 10月27日 / 午後3時、ロームシアター京都(サウスホール)で11月2日 / 午後7時 11月3日 / 午後3時に公演。上演時間60分。 ●マルコ・ダ・シウヴァ・フェレイラ『CARCAÇA (カルカサ)』 マルコ・ダ・シウヴァ・フェレイラを含む10人のダンサーと2人のミュージシャンによる、型にはまらない陽気なコール・ド・バレエ(群舞)。スタンダードなフォークダンスを基にした動きと現代的なハウスミュージックによるヴォーギングの複雑な脚さばきを融合させ、身体的語彙をアイデンティティに結び付ける。ロームシアター京都(サウスホール)で11月15日 / 午後7時、11月16日 / 午後3時に公演。上演時間75分。 どれも独創的な作品ばかりで、連日通いたくなる悩ましいラインナップだ。また、公演だけでなく、ワークショップも多数開催されるので、より深掘りしたい人はチェックしてみることをお薦めする。また、オープニングイベントとして、アメリカ人写真家オリヴィア・ビーの写真展『その部屋で私は星を感じた』が「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」との共同により、京都・祇園にあるギャラリー ASPHODEL(アスフォデル)で10月4日〜11月16日に開催される。 新しいメセナの在り方
https://newspicks.com/news/10622907/
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不要不急ではなく常に“要急”な舞台芸術学 世界の先鋭的な振付作品が勢ぞろいするモダン/コンテンポラリーダンスのフェスティバル「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」が、この秋ついに日本で初開催される。 ハイジュエリーメゾンのヴァン クリーフ&アーペルが、なぜダンスを支援するのか? そして、10月から11月まで1カ月以上にわたるプログラムの見どころは? メゾンの歴史とダンスとの関係を辿りながらご紹介しよう。 ヴァン クリーフ&アーペルとは ヴァン クリーフ&アーペル(Van Cleef & Arpels)は、パリ五大宝飾店(グランサンク)に名を連ねるハイジュエリーメゾンである。「愛・美・夢」をテーマに、独創的な比類のないジュエリーや高級時計のコレクションを展開し、モナコ皇室御用達ブランドとしても知られるなど多くの王侯貴族や大富豪などセレブリティーたちを魅了してきた。 そもそもこのメゾンの歴史は、1895年にフランスのパリで宝石商の娘であったエステル・アーペルと、ダイヤモンド商で宝石細工職人の息子アルフレッド・ヴァン クリーフの結婚を機に始まる。1906年には、アルフレッドとともにエステルの兄弟シャルルやジュリアンが事業に参加し、パリのヴァンドーム広場22番地に本店ブティックをオープンした。さらに1908年にはエステルの弟ジュリアンが、1912年には末弟ルイが参加し、ビジネスを確固たるものにしていった。 インスピレーションの源となったバレエ メゾンがダンスと深く関わるようになったのは、末弟のルイ・アーペルが熱烈なバレエファンだったことが大きい。ルイは1920年代頃から、甥クロードを連れては店からほど近いパリ・オペラ座へしばしば通った。その後、この二人が中心となり、1940年代初頭からニューヨークで初のバレリーナ クリップを制作するようになった。 クラシックバレエは、インスピレーションの源として、ヴァン クリーフ&アーペルの重要な伝統となっています。その歴史は80年以上前に遡り、1940年代にはこのテーマから着想を得て、メゾンのダンサー クリップの作品が誕生しました。ダンスという動きの芸術の真髄がジュエリーに反映され、最も貴重な素材によって身振りやポーズが生き生きと表現されています。下絵から宝石の選別、ワックスの彫刻から金属の成形に至るまで、メゾンの女性像に命を吹き込む作業は、職人たちが一体となって成し遂げる偉業と言えます。 クラシックバレエは、ヴァン クリーフ&アーペルのインスピレーションの源となり、重要な伝統として受け継がれていく。バレエ作品に登場するバレリーナをモデルにした優雅さ、繊細さ、躍動感が、アトリエの“マンドール(黄金の手)”と呼ばれる熟練の職人たちによって再現され、ジュエリーコレクターを魅了した。こうしてバレリーナ クリップは、瞬く間にメゾンを象徴する作品シリーズとなった。 戦後アメリカで強まったバレエとの絆 バレエファンだったルイ・アーペルに連れられてパリ・オペラ座へ通った甥のクロードは成長し、第二次世界大戦後のアメリカ・ニューヨーク五番街でブティックを任されるようになった。叔父と同様にバレエに造詣が深かったクロードは、ここで振付家のジョージ・バランシンに出会い、親交を結ぶことになる。 ジョージ・バランシン(1904-1983)といえば、近現代のダンス史を語るうえで欠かせない重要な振付家である。それまでのクラシックバレエから物語性を排し、純粋に身体の動きを抽象的に追求したプロットレスバレエ(物語のないバレエ)を生み出し、モダンダンスや後のポスト・モダンダンス、コンテンポラリーダンスに多大な影響を与えた。 バランシンは亡命ロシア人だったが、渡米してニューヨーク シティ バレエ団(NYCB)の共同創設者となっていた。1940年代末にバランシンは、ヴァン クリーフ&アーペルのブティックのショーウィンドーを熱心にのぞき込んでいた。それは妻であり、ダンサー・俳優であるヴェラ・ゾリーナの踊る姿をモチーフにしたバレリーナ クリップを、妻本人に贈るためだった。 この時、バランシンにはある着想が浮かんだと伝えられている。物語がなくても「人間の動きはそれだけで美しい」と確信するバランシンは、「そのままで美しい宝石」をテーマにした新作バレエを構想した。そんなバランシンと親交を持ったクロードは店の貴重なジュエリーを見せ、バレエ作品の創作を薦めたともいわれている。 そうして誕生したのが、1967年NYCBで初演されたバレエ作品『ジュエルズ』である。宝石に着想を得た全3幕からなり、第1幕「エメラルド」にはガブリエル・フォーレ、第2幕「ルビー」にはイーゴリ・ストラヴィンスキー、第3幕「ダイヤモンド」にはピョートル・イリイチ・チャイコフスキーと、それぞれの宝石にひとりの作曲家の音楽が当てられた。 革新的な振付家支援のプロジェクトを開始 メゾンのダンス芸術に対する深い敬意と絆は長年にわたり、革新的な振付家をサポートするための活動は今日まで続いている。 2012年からは、フランス人ダンサー・振付家のバンジャマン・ミルピエとのコラボレーションをスタート。ミルピエは、2014年~2016年パリ・オペラ座の芸術監督を史上最年少で務めたことで知られる気鋭のアーティストだが、それ以前にNYCBのプリンシパル時代(2002〜2011年)にはバランシンの『ジュエルズ』を踊ったこともある。NYCBの退団後、ミルピエがロサンゼルスで創設したクリエイター集団「L.A. Dance Project」ではメゾンのサポートを受け、 『Reflections』(2013年)、『Hearts & Arrows』(2014年)、『On the Other Side』(2016年)から成る3部作「Gems」に加え、2019年にはバレエ『Roméo et Juliette』を創作している。 さらに欧州でオペラやダンスを支援する公共団体「Fedora」(フェドラ)とのパートナーシップを通じて、振付創作分野における革新や若い才能の育成を促進。2015年から「FEDORA-ヴァン クリーフ&アーペル バレエ賞」を創設し、1年に1度、創意ある優れた作品を対象に表彰している。 「ダンス リフレクションズ」を始動 2020年代以降、メゾンは世界有数の機関とも提携。ダンスの振付芸術を文化的遺産として継承し、モダン/コンテンポラリーダンス作品の創作を促進する支援プロジェクト「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」が始動した。 このプロジェクトを強力に推進しているのは、前プレジデント兼CEOのニコラ・ボスと、ダンス&カルチャー プログラム ディレクターを務めるセルジュ・ローランである。 特にローランは、カルティエ現代美術財団(パリ)のアソシエイト・キュレーターを経たのち、約20年にわたってポンピドゥー・センター(パリ、マラガ、ブリュッセル)で舞台芸術企画部門の責任者だった人物。2019年4月にヴァン クリーフ&アーペルに参画した。プロジェクトを推進する知恵袋といったところだろう。 「ダンス リフレクションズ」では、振付芸術の伝統を次代へと継承するため、アーティストや劇場などのダンス関連団体を支援するとともに、新たな作品制作を奨励することを目的としている。そのために掲げられているのが「創造」「継承」「教育」の3つの指針だ。 「創造」は、現在活躍中の振付家に寄り添うとともに、新作の制作に積極的な団体を支援すること。 「教育」は、フェスティバルのような大きなイベントにおいて、主要なモダン/コンテンポラリー作品から新作までを上演し、幅広い観客層に向けて質の高い多彩なプログラムやワークショップに触れる機会を提供すること。 「継承」は、ダンスの歴史と文化に対する一般の人々の関心を高めること。 その具体的な事業として、毎年世界の各都市でダンスのフェスティバル「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」を開催してきた。2022年のロンドン、2023年の香港とニューヨークに続き、2024年はいよいよ日本で開催される。 日本初開催「ダンス リフレクションズ」の見どころは? 日本初の「ダンス リフレクションズ」は、2024年10月4日から11月16日まで1カ月以上にわたり、京都と埼玉で開催とされる。「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2024」、ロームシアター京都、彩の国さいたま芸術劇場との提携により、大胆な試みに挑戦するダンスの俊英たちの作品が続々と来日する。それぞれの見どころを簡単にご紹介しよう。 ●アレッサンドロ・シャッローニ『ラストダンスは私に』 イタリア・ボローニャ地方で継承されるフォークダンス「ポルカ・キナータ」を探究したアレッサンドロ・シャッローニの作品。かつて人気を博したものの現在では消滅の危機に瀕する男性の求愛ダンスの復興と普及を目指したデュエットパフォーマンス。京都芸術センター(講堂)で10月5日、6日 / 午後4時に公演。上演時間30分。 ●(ラ)オルド、ローン with マルセイユ国立バレエ団『ルーム・ウィズ・ア・ヴュー』 マドンナやスパイク・ジョーンズといったビッグネームとコラボし「ポストインターネットダンス」を追求するアーティスト集団「(ラ)オルド」と、フランスのエレクトロニック・ミュージックの第一人者ローン、マルセイユ国立バレエ団により、2020年フランスのパリ・シャトレ座で制作した作品を日本初演。12カ国20人のダンサーたちからほとばしる圧倒的なエネルギーと、全編にわたって並走するローンの音楽が分かちがたく融合する。ロームシアター京都(サウスホール)で10月5日、6日 / 午後6時に公演。上演時間80分。 ●オラ・マチェイェフスカ『ボンビックス・モリ』 近代の先駆的なパフォーミングアーティストであるロイ・フラーが、1892年に創案したダンス「サーペンタインダンス」は、初めて電気照明を使用し、身体を覆ったシルクの布をうねるように動かして、光とマテリアルのスペクタクルを展開した。フラーのダンスからインスピレーションを得たオラ・マチェイェフスカは、3人のダンサーのための作品を制作。タイトルの「ボンビックス・モリ」とはラテン語で蚕の意味で、ダンス、過去の記録、技巧性を織り交ぜたハイブリッドのメタファーを生み出す。ロームシアター京都(ノースホール)で10月11日 / 午後7時、10月12日 / 午後4時30分に公演。上演時間60分。 ●オラ・マチェイェフスカ『ロイ・フラー:リサーチ』 同じくオラ・マチェイェフスカが、ロイ・フラーの「サーペンタインダンス」に取り組んだ研究を基に制作。身体を通してダンスをアーカイブ化することにより、振付の歴史、その継承と解放に独自の視点をもたらす。京都芸術センター(講堂)で10月14日 / 午後6時30分に公演。上演時間 40 分。 ●クリスチャン・リゾー『D'après une histoire vraie(ダプレ ユヌ イストワール ブレ)―本当にあった話から』 2015年より南仏モンペリエの国立振付センター ICI-CCNのディレクターを務めるクリスチャン・リゾーが、イスタンブールの路上で即興で踊る男性たちのフォークダンスからインスピレーションを受けて制作した作品。8人のダンサーと2人のドラマーが、「男らしさ」という伝統の悪徳と現代性の分裂を繊細に解消するダイナミックなダンス。2013年にアヴィニョン演劇祭で初演以来、世界中で上演されてきたレジェンド的作品が待望の日本初演。京都芸術劇場 春秋座で10月12日&13日 / 午後7時、彩の国さいたま芸術劇場(大ホール)で10月19日 / 午後7時、10月20日 / 午後3時に公演。上演時間60分。 ●マチルド・モニエ & ドミニク・フィガレラ『ソープオペラ、インスタレーション』 振付家マチルド・モニエと画家ドミニク・フィガレラが2009年に共同制作した振付作品「ソープオペラ」 の新バージョン(2014年初演)。徐々に広がりゆく動く泡という素材を空間の中心に置き、ドラマチックな緊張感をもってパフォーマンスが繰り広げられる。ダンスとビジュアルアートの密接な関係を描いた作品。ロームシアター京都(ノースホール)で10月18日 &19日 / 午後7時、10月20日 / 午後4時に公演。上演時間45分。 ●ラシッド・ウランダン / シャイヨー国立舞踊劇場カンパニー『CORPS EXTRÊMES(コール エクストレーム)-身体の極限で』 2021年、パリのシャイヨー国立劇場ディレクターに就任したラシッド・ウランダンが、「飛行、無重力、宙づり、飛翔といった概念が引き起こす魅惑に焦点を当てたい」と着想したアクロバティックな作品。綱渡り(ハイライナー)とクライマーといったエクストリームスポーツのアスリート2人が、8人のアクロバットパフォーマーと出会い、クライミングウォールや上空に張られた長いロープの上で目もくらむようなパフォーマンスを繰り広げる。2人のアスリートのナレーションも重要な役割をはたし、現実に根差しながらも夢のような作品。彩の国さいたま芸術劇場(大ホール)で10月26日 / 午後7時 10月27日 / 午後3時、ロームシアター京都(サウスホール)で11月2日 / 午後7時 11月3日 / 午後3時に公演。上演時間60分。 ●マルコ・ダ・シウヴァ・フェレイラ『CARCAÇA (カルカサ)』 マルコ・ダ・シウヴァ・フェレイラを含む10人のダンサーと2人のミュージシャンによる、型にはまらない陽気なコール・ド・バレエ(群舞)。スタンダードなフォークダンスを基にした動きと現代的なハウスミュージックによるヴォーギングの複雑な脚さばきを融合させ、身体的語彙をアイデンティティに結び付ける。ロームシアター京都(サウスホール)で11月15日 / 午後7時、11月16日 / 午後3時に公演。上演時間75分。 どれも独創的な作品ばかりで、連日通いたくなる悩ましいラインナップだ。また、公演だけでなく、ワークショップも多数開催されるので、より深掘りしたい人はチェックしてみることをお薦めする。また、オープニングイベントとして、アメリカ人写真家オリヴィア・ビーの写真展『その部屋で私は星を感じた』が「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」との共同により、京都・祇園にあるギャラリー ASPHODEL(アスフォデル)で10月4日〜11月16日に開催される。 新しいメセナの在り方
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