紙の触感をダンスに Co.山田うん『遠地点』稽古場レポート
コンテンポラリーダンスカンパニー「Co.山田うん」(山田うん主宰)による新作『遠地点』が、今週末1月25日(土)〜26(日)日@KAAT神奈川芸術劇場で上演される。紙をモチーフとして、2023年から創作を続けてきた三部作の完結編だ。
山田うんとは
山田は、近年目覚ましく活躍しているアーティストである。
ジャンルに囚われることなく感性を開放し、世界各国の地域や社会に積極的に関わるフットワークの良さがある。各地の歴史や伝統をリサーチし、舞踊的な振る舞いを通して現在と向き合うような作品を発表し続けている。
代表事例にも事欠かない。
あいちトリエンナーレ2016で世界初演したダンス作品『いきのね』は、愛知県奥三河地方に700年以上継承されている修験道系の芸能神事「花祭」にリサーチした。
東京2020オリンピック閉会式ではDirector of Choreographerを務め、オアイヤマダのソロダンスの振付や、日本各地の郷土芸能(アイヌ古式舞踊、エイサー、西馬音内盆踊り、郡上踊り)の映像を経て式典会場での東京音頭や盆踊りへつなげる演出にも関わった。
※国際オリンピック委員会「東京2020 | オリンピック競技大会 閉会式 - 式典 | 東京2020リプレイ」
https://olympics.com/ja/video/closing-ceremony-ceremony-tokyo-2020-replays
2021年国立劇場「二つの小宇宙 ーめぐりあう今ー」では、声明の会・千年の聲と共演したダンス作品『Bridge 2021』を発表。コロナ禍の喪失感を超えて、未来へ繋がる橋をイメージした。
昨年2024年は、人工生命研究者の池上高志とコラボレーションしたプロジェクト第3弾『まだここ通ってない』を公演した。AIやVR、ドローンといった先端科学を用いたテクノロジーとダンスとの共演が話題となった。
※動画はワーク・イン・プログレスの際のトレイラー。:山田うん×池上高志 "Wild Wordless World" ワークインプログレス&トーク配信!Un Yamada ×Takashi Ikegami "Wild Wordless World"
国際的なアートフェスティバルから国家的なイベント、公共劇場、エンターテインメントな公演まで、Co. 山田うんは目覚ましく活躍し続けている。テクニックと演技力のあるメンバーが所属し、それぞれの個性と圧倒的なチームワークによって、質の高いクリエイションを行っている。
最新作は紙を使った三部作『遠地点』
そして、最新作『遠地点』は、紙をモチーフとしてリサーチやクリエイションを重ねてきた三部作となる。
1作品目の『EN』は、和紙を使った山田のソロダンス作品で、2023年12月麻布台ヒルズと2024年4月メキシコで上演した。
福井県の五十嵐製紙から和紙の提供を受け、その後も和紙の里を訪れて紙についてのリサーチを重ねた。
2作品目の『TEN』は、2024年11月長野県上田市で上演した。レジデンスアーティストとして滞在し、上田市文化芸術センター「サントミューゼ」のスタジオ内外をフル活用してスペクタクルを展開した。
そして、3作品目となる『遠地点』は、2025年1月KAAT神奈川芸術劇場で上演する。12人のダンサーによる群舞作品となり、山田は以下のようにコメントしている。
紙と思考の関係は近くても肉体とは距離があります。そういう簡単に繋がりにくい何かに創作の種を植えてここから素晴らしいクリエイティブチームと12人のダンサー達と舞台化していきます。
紙の触感を探る稽古場
最新作『遠地点』は、どのように創られているのか。2024年12月11日(水)横浜の稽古場を訪れた。
朝からバレエのエクササイズが開始されている。空間を大きく移動し、高く跳躍する。バレエベースのテクニックに裏打ちされたスキルの高さが、作品にダイナミックな効果をもたらしていることを確認できる。
ウォームアップが一段落すると、ダンサーたちのセット作りの共同作業に入る。フロアに90cm×4=360cm四方の白い模造紙を広げ、縁を養生テープで補強する。これを2枚作る。メジャーで測ったり、カッターナイフで切ったり、小学校の工作の時間みたいに和気あいあい。
次に、床面と紙のシートの間に空気が入らないよう、上に乗って摺り足で均していく。さらにこの2枚をつなげて、間口4間の横長のアクティングエリアにする。みなで立って、摺り足で滑り具合や質感を確かめる。山田の的確な指示と、率先して取り組むダンサーたちの作業には無駄がない。
次にダンサーたちが各自で1枚、90×120cmくらいの白く薄い和紙を持って、等間隔で位置する。フロアに敷いて寝たり起きたり、立って手に持ち投げたりなどの動作。すでにシーンの構成はできている様子で、紙を扱うたびにガサガサ、バサバサと音がする。振付が固まっているシーンを楽曲に合わせて小返ししていく。
昼休憩の後は、チームに分かれてパートごとの作業となる。テーブルセットに座って演劇的なシーンの流れをおさらいするチーム、紙のフロアの質感を足裏で確かめながら動いてみるデュオなど、4チームくらいが別々に稽古している。それぞれで細かい動きを詰めていき、山田は各チームを回りながらアドバイスしていく。
この日は、ある特殊な紙の素材が宅配便で届いた。望月寛斗と西山夕貴のペアが踊るシーンで使用してみるらしい。山田はさっそく素材を開封して広げ、繋ぎ合わせる。望月と西山もその紙の上でデュオを踊りながら、動きやすさや動線を確認していく。
川合ロンと猪俣グレイ玲奈は、寝台のセットと和紙を掛け布団として使ったシーンでデュオを踊る。
川合は、ダンス界でも篤い信頼を集め、国内外のアーティスト作品に多数参加してクリエイションから関わる一方、ワークショップなどでは優れた指導者としても活躍している。
猪俣は、アメリカ出身のハーフで、ニューヨーク大学でダンスと東アジア研究を専攻し、Co.山田うんのメンバーオーディションで60名近い応募者の中から20倍の難関を勝ち残った逸材。
二人は英語でコミュニケーションを取りながら、細い動きを創っていく。山田も中に入り、自分で動いて見せてディスカッション。国際的に活動するカンパニーならではの風景だろう。
こうしたそれぞれのシーンを、振付助手の飯森沙百合がスマホで動画を撮り記録していく。飯森は今回は出演していないがキャリアのあるダンサーで、各チームをまわりながら撮影した動画をその場で見返し、細かい動きのアドバイスもしていく。高いダンススキルとスムーズなチームワークで、クリエイションは快調だ。
現代は、DX化によってペーパーレスな社会が浸透しつつある。しかし、紙という素材が文明にどのような進化をもたらしたのか、人間の身体にどのような感覚を育んだかをあらためて想起させる舞台となることだろう。
ヒエラルキーのない創作の場
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