「たった3時間だけの魔法」 佳河健史
たった3時間だけの魔法 佳河健史 1 〝夢の王国〟を取り囲むようにモノレールは廻っている。進む方向に顔を向けるように立つと、ちょうど私の左側と右側で別の世界が広がる。その境界を、夢の王国の国境をアピールするかのように、モノレールは静かに進んでいく。 「佳苗ー、ここ空いてるよ!」 「え?」と振り向く私を招き寄せるように、有希が日の差している席をぽんぽんと叩く。 「ありがとー有希、立ってるの疲れたー」 有希の呼び掛けに応えて夢の王国側のシートに座る。どこにでもあるような住宅街はもう見えなくなって、私の視界は幻想を彩る世界に支配される。そこでは黒いアスファルトの海から逃げるように人々が夢の王国へと吸い込まれていく。 「平日なのに人多いね……」と私がため息まじりに呟いたとき、テロンと通知が鳴って、有希はとっさにスマホをいじり出す。手前の桜と智子は話に夢中。私もなんとなくスマホを右手に持つが、たまたま見えたものにくぎ付けになってしまった。 「あ、プリンセス城」 私の独り言は多分誰にも聞こえていない。それは私もよくわかっている。お城を見るよりも大事なこと――返信することやアイドルの話にすることにみ
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