ベストセラー漫画小林よしのりの「コロナ論」をぶった斬る【篁五郎】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)
3月26日に小林よしのり氏の「ゴーマニズム宣言SPECIALコロナ論5」が発売された。小林氏は自らのブログで、
「『コロナ論5』は実質、『コロナ論』シリーズの最終巻になる。もういいかげんコロナ禍は終わりだろう。あと残っているのはワクチンの被害者がどのくらい増えて、訴訟問題が頻発してくるか」
と断言した。つまり、小林氏はコロナに対する見解の主張を終わりにしたということだ。
ここまで2年以上、コロナを「新コロ」「コロナくん」と矮小化し、医学的な根拠もなく反ワクチンを唱えてきた。マスコミや医師、製薬会社を悪玉扱いして自らの正当性を主張してきた。コロナやワクチンについて陰謀論にも似たような主張が今でも続いている背景に、彼の著書があることは疑いようがない。
小林氏とは無関係だが、反ワクチンの団体はノーマスクで接種会場に押しかけて開場を妨害したり、ワクチン接種をしているクリニックへ無断侵入をしたりするなど過激な行動をしている。先日、中学2年生を妊娠・出産させたと報じられた平塚正幸氏が党首の反コロナ・反ワクチンの政治団体も同様の行為をして、党員が逮捕されている
彼らはワクチンの効果をいくら説明しても聞く耳を持たず、自分が信じている医師や学者、言論人の言うことしか聞かない。こうした過激な行動を続ける団体は他にもあるようだ。中には一部の行き過ぎた行動に、団体を抜けようとするメンバーも出てきているらしいが、ここまで極端な暴挙をすれば社会にとって害悪な存在である。
小林氏の集まりは過激な行動はしていないが、主張はそうした団体とほぼ同じだ。犯罪者予備軍も生んでいる反コロナ・反ワクチンの言い分とは何なのか?彼らの主張の背景にある小林氏の「コロナ論」のおかしな点を指摘していきたい。
小林氏の「コロナ論」は1巻から5巻まで発売されているが、基本的に彼の主張は同じである。どうしてこうした言動に走ってしまったのかを分析し、その主張の幹をぶった斬る。
小林氏のコロナに対する主張は「反コロナ」「反自粛」「反マスク」「反ワクチン」の4つだ。
「反コロナ」についてはご存じの方も多いだろう。小林氏は「コロナは風邪」と断言し、インフルエンザよりも死者が少ないのだから放っておけばいいと1巻から主張している。その例に出したのが、2009年に起きた新型インフルエンザであった。小林氏は新型インフルエンザの騒ぎと感染者数、新型コロナウイルスの騒ぎと感染者数を比較して予言をしていた。
しかし小林氏の言うように、コロナは風邪でもなければ新型インフルエンザと同じ道を辿らなかった。理由ははっきりしている。新型インフルエンザは季節性インフルエンザと異なり抗原性が大きく異なるものの、抗インフルエンザウイルス薬(タミフル・リレンザ)で治療が可能であったという点だ。感染力が高くて警戒が必要な感染症なのだが、ワクチンも既にあり、治療法も確立しているので早く収束ができたのである。
新型コロナウイルスはメッセンジャーワクチンで重症化や感染の予防ができるものの、治療法は未だに確立していない。治療薬は、2022年4月現在レムシビル、デキサメタゾン、バリシチニブなどが承認されているが、流通量が安定せず値段も高額なのが難点といえる。抗インフルエンザウイルス薬並みに供給が安定させられたら値段ももっと下がってくるだろう。
2020年当時は治療法が確立していなかったのだからコロナが新型インフルエンザと同じ道を辿るというのは明らかにおかしな話であるといえる。
ところが小林氏と彼の支持者は「治療法ならば提示しただろう」と言ってくるだろう。彼らが提示したのは自然免疫を獲得することである。これも「コロナ論」1巻で小林氏が主張していたことだ。確かに自然免疫を獲得できればワクチンも必要ないし、治療薬もいらない。小林氏の主張通りに事が進めば彼のいうように「コロナは風邪」になっていた。いや、風邪以下になっていたに違いない。
残念ながら小林氏の望み通りになっていないのはご承知の通り。そもそも小林氏の自然免疫獲得や集団免疫獲得は、ワクチンの接種率が高いことが前提条件である。イギリスが発行している科学雑誌「Nature」にはこう記してある。
「集団免疫という考え方が意味を持つのは、ウイルスの伝播を防げるワクチンが手に入る場合に限ります。そのようなワクチンがないのであれば、集団免疫を達成する唯一の方法は、全員にワクチンを接種することです」
この発言をしたのはジョージタウン大学の数理生物学者・Shweta Bansal氏である。集団免疫とは、感染者が出たとしても、周囲に感染しやすい宿主が少なければウイルスの伝播がそこで断ち切られるということであり、ワクチン接種済みの人や感染歴のある人がウイルスに感染したり、ウイルスを伝播したりすることはない。
小林氏が提示した集団免疫及び自然免疫の獲得は前提条件を間違えており、治療法とは言い難い代物であった。
この話は小林氏が現在最も強く主張している「反ワクチン」にも関連してくる。小林氏は医学者で大阪市立大学名誉教授の井上正康氏とともに「ワクチン接種は不要」「ワクチンは毒を体に入れるようなもの」だといい、ワクチンを打ってはいけないとキャンペーンを張っている。
しかし先述したように、自然免疫や集団免疫を獲得するためにはワクチン接種が高いことが前提である。ワクチン接種を拒否したら自然免疫・集団免疫を獲得するのは不可能だ。小林氏は、ワクチン接種をしても再び感染者が急増しているのはワクチンに効果がないからでは?と疑問視している。残念ながらワクチンの追加接種率(3回接種)が高い国は現在、行動制限が緩和されており、マスクを外して生活ができている。
札幌医科大学医学部 附属フロンティア医学研究所がまとめてくれたデータによると2022年4月17日現在、イギリスが57.2%、フランスが56.5%、ドイツが58.6%である。どの国も現在マスク着用の義務や行動制限をしていない。例外は韓国で、追加接種率が64.3%と高い数値を持っていながら3月に感染者数が1千万人突破するクラスターが再び発生してしまった。だから暴動が起きてしまう事態に陥ってしまったのである。
つまり小林氏が言うような「マスクなし」「行動制限なし」で生活をするためにはワクチン接種が不可欠なので科学的に矛盾した主張をしていると言っていいだろう。
小林氏と同じような反ワクチン論者は「コロナのメッセンジャーワクチンは遺伝子操作をしてしまう」と主張しているが、誤った情報なのはご承知の通りだ。メッセンジャーワクチンというのはウイルスのタンパク質をつくるもとになる遺伝情報の一部を注射し、人の身体の中で、この情報をもとに、ウイルスのタンパク質の一部が作られる。それに対する抗体などができることで、ウイルスに対する免疫ができる仕組みだ。遺伝子操作など一切できない。
mRNA(メッセンジャーRNA)もコロナで急に出てきたのではなく、10年以上前から研究されていたものだ。ダウン症に効果があるか研究されていてもおかしくはないだろう。残念ながら現在までそうした研究発表はされていない。
小林氏と井上氏は「我々はリベラルアーツの精神で言論をしている」と述べているが、こうした事実に耳を傾けずに己の主張が正しいと繰り返している。リベラルアーツとは「人間を良い意味で束縛から解放するための知識や、生きるための力を身につけるための手法」である。そのためには概念に囚われずにあらゆる学問や主張を学ばないといけない。
しかし小林氏や井上氏は自らの主張に反対している意見を「コロナ脳」などと切って捨てて学ぶどころか意見すらまともに取り合おうとしない。自己懐疑もなく、自らの主張に執着するのはリベラルアーツの精神とは程遠いと言えるのではないだろうか。
https://www.kk-bestsellers.com/articles/-/1427866/