女学生と先生の物語。
――近くで談笑している同世代の女の子は、ピンク、水色、エメラルドグリーン、オレンジなどの華やかな色に身を包んでいて、誰よりも美しく咲き誇ろうとし、結果どうしようもなく埋没していた。暇だから弄んでいた、私のばっさりと切り揃えられた黒髪がさらさらと白い指先から零れ落ちる。薄手の黒い生地の裾に白いシフォンのあしらわれたティアードワンピースにこれまた黒のカーディガンを羽織った私の恰好は、大よそうららかな春の季節には似つかわしくないものであった。
「私は貧しいのですが、あなたに私の好
きな珈琲を一杯差し上げる豊かさ程度は持ち合わせています」
「ここは店主がオーダーの度に豆を挽くところから始まるから、出てくるのが遅いんです。
それにようやく珈琲が来ても、熱すぎて香りしか楽しめない。でもそれでいいんです。そこ
で店主を急かしたり、あわてて珈琲に息を拭き掛けるような人間は共食を、果ては文化を愉
しめない人間です。ここは珈琲を待っている間も、そして珈琲が冷める時間まで喫茶の時間
に含めているんですよ。時間は何よりも尊いものです。だからこそ、それを惜しみなく贅沢に使うことは、この上なく優雅で貴族的なことだとは思いませんか」
――帰り道、駅のプラットホーム、私は花束を抱き締めて泣いている。私と先生は二度と会わ
ないと分かっていて、それが寂しいから泣いている。